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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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cholecys-gastrectomy

MISSION

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今回諸君に課せられた急性胆嚢炎と巨大な胃粘膜下腫瘍がみつかった。これを最小限の切開で同時に確実に切除してもらいたい・・わかっているとは思うが何が起ころうとも当局は一切関知しないので・・・それでは成功を祈る

STRATEGY

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gb_gist腫れた胆嚢とその中に胆石を認める(黄矢)。胃には巨大な腫瘍がみられる(赤矢)今回は80才代女性の胆石・急性胆嚢炎に巨大な胃粘膜下腫瘍のケースである。高齢に加え、急性胆嚢炎で胆嚢はかなり腫れ上がっている。胃の腫瘍も9cmと巨大である。

急性胆嚢炎は開腹手術でも胆嚢を切除するのは容易ではない。炎症のため周囲組織との癒着は著明であるし血流量は増大して出血はしやすいことは容易に予測できる。また、胃粘膜下腫瘍は10cm弱とかなり大きく腹腔鏡下の操作は難易度が高いと思われる。

それぞれのターゲットは確かに強敵ではある。しかし、すぐに諦めてはいけない。手術は困難かもしれないが不可能ではない。とにかくひとつひとつの基本操作を確実にやっていけば安全・確実にこなせるはずだ。特に難しい特殊技術を要するわけではない

DOCUMENT

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giant gist腹腔鏡でおなかの中の空間を見たところ。胃につながる大きな“しこり”があります(赤矢)2005年5月のある日他院より患者さんの紹介があった。80歳代の女性である。腹痛があり救急受診、入院して精密検査をしたところ胆石が原因の急性胆嚢炎が腹痛と発熱の原因であることが判明した。入院中に検査した胃カメラで胃にも腫瘍が見つかったという。これらの治療をして欲しいとの依頼である。紹介していただいた先生は腹腔鏡手術でお願いします、というわけではなかった。普通なら急性胆嚢炎も巨大な胃粘膜下腫瘍も小さな傷で手術を行う腹腔鏡手術は困難である。どちらもこのケースでは技術的に困難である。しかし、我々は日常的に急性胆嚢炎も胃粘膜腫瘍も腹腔鏡で切除している。もちろん全例成功しているわけではないが最初から諦める訳にはいかない。このケースをもし開腹手術で行うこととすればとてつもなく大きく開腹する必要があるので術後の痛みは強いし、それに引き続く合併症の可能性が高くなる。

本人・家族と話し合った結果、結局腹腔鏡下に胆嚢摘出術と頤部分切除を行うことにした。

全身麻酔下に手術を行った。型どおり臍下に1cmの切開をおいて腹腔鏡用のポートを挿入した。いつものように残り3カ所に5mm ポートを挿入した。胆嚢は予想通りかなり腫大して固くなっていた。しかも、周囲の組織とすでに癒着して手術操作は困難をきわめていた。通常の外科医はすぐに諦めるところであるが、修羅場をくぐってきた内視鏡外科医にすれば不可能ではない。ここでその詳細なテクニックを記載する余裕はないが、とにかくひとつひとつの技術を確実にこなしていき、何の問題も起こさずめでたく胆嚢は摘出された。

resect smt胃粘膜下腫瘍を自動縫合器で切離しているところしかし、まだオペは終わってはいない。胃の巨大な腫瘍も切除しなければならない。確かにターゲットは大きい。しかし、幸い腫瘍は胃の壁の中でも比較的切除しやすい部位にあった。術前のCT等の検査では腫瘍は胃から発生しているとみられていた。しかし、脾臓や横隔膜とも癒着しているという可能性があったので楽観視はしていなかった。実際腹腔鏡下に観察すると大網と癒着しその中から栄養血管が伸びていた。幸い横隔膜や脾臓との直接的な癒着はなかった。案ずる夜産むがなんとか・・であった。超音波凝固切開装置で腫瘍に流入する血管やその他の酢状物を切離した。そして、自動切離縫合器を用いて腫瘍を含む胃を切除していった。胆嚢と胃粘膜下腫瘍をそれぞれプラスチックバッグに入れて体外へ摘出して手術を完了した。

術後経過はきわめて良好であった。やはり、腹部を大きく切開しないと言うことは本当にすばらしいと思う。本当に大きな手術を同時に2つもこなしたとは思えない。手術後の重症感は全くない。高齢の患者さんには特にいい手術だと思った。顕微鏡検査(病理組織検査)の結果では胆嚢は急性胆嚢炎で胃の腫瘍は消化管間質性腫瘍(GIST)の診断であった。どちらも適切な治療がなされて特に追加の治療を行う必要性はないと判断した。





COMMENT

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smt and gb stone切除した胃粘膜下腫瘍、胆嚢そして胆石(左より)胆嚢摘出術は腹腔鏡手術の中でもっとも多い手術である。その歴史も世界的にみればそろそろ20年になろうかと言うところである。しかし、胆石症に対する標準術式であるこの”腹腔鏡下胆嚢摘出術(ふっくうきょうかたんのうてきしゅつじゅつ)”も急性胆嚢炎などにおいては完全に標準術式ではないと思われる。施設によっては腹腔鏡手術は適応外で最初から開腹手術を選択するかもしれない。また、胆嚢炎発症から何日目にオペをするのかも議論のあるところである。現在僕の所属している施設の標準は急性胆嚢炎に関しては発症から3日以内であれば緊急で腹腔鏡下胆嚢摘出術を行うことである。これは、学問的な裏付けだけでなく安全に施行できるという技術的な裏付けがあるからである。僕からすれば患者さんのためには出来るだけ早期に手術をしてあげた方がいいのは明らかであると考えている。激しい腹痛や発熱から少しでも早く開放してあげた方がいい、しかも、手術をすればなにも延々と抗生剤を投与して絶食にする必要なんかない。大切な時間を無為に過ごすこともない。施設によっては急性胆嚢炎はまず内科で入院して、絶食をして抗生剤を投与して、何日も入院して炎症が完全に治まってからいったん退院して、後日外科に入院して手術ということもある。これもまたこれでひとつの方法ではあるだろう。確かに胆嚢炎の急性期に緊急でオペをするのはストレスフルである。外科医にとってはストレスフルであるが、患者さんの負担はかなり小さい。ただし、腹腔鏡でのオペが危険であると判断したらすぐに開腹手術に変更する”勇気”も必要だ。内視鏡手術は目的ではない、手段である。患者さんのためにはどっちが適切なのか、それは外科医自身の技量だけでなくその施設全体のシステムで変わってくる。内視鏡手術にこだわるあまり、コントロール困難な出血や胆管損傷という重大な合併症は決して起こしてはならない。

port site手術中の様子。腹部を大きく切開することはない。今回のケースでは急性胆嚢炎だけでなく、胃粘膜下腫瘍も合併していた。古典的には胃粘膜下腫瘍は5cm未満は経過観察、5cm以上は手術で摘出、ということになっていた。しかし、腹腔鏡手術が出現してきてからは2cmから5cmは腹腔鏡下に切除、5cmを超えるものに関しては開腹手術で切除、というのが標準的な考えであるとされている。その根拠をこの場で示すスペースは無いが、今回のケースでは最大径9cmと巨大であったが腹腔鏡下に何の問題もなく切除出来た。結果的にこれがまずかったというのはなかったと確信している。術後経過も問題無かったし、病理組織検査の結果を考慮しても長期的な予後を悪化させるような根拠は見つからなかった。

今回のケースでもやっぱり腹腔鏡手術のパワーを見せつけられた。確かに技術的な困難性を克服する必要はある。患者さんのためにこのオペが圧倒的に有利であることが明らかなのであれば、この困難な道を歩いていくのは我々外科医の責務であると考えている。

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