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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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MISSION

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strategy
今回諸君に課せられたミッションはこうだ。30歳台の男性の食道が筋肉の機能異常によって食事や水分が通らなくなっている。体重減少や胸の痛みだけでなく食道内の食物やその他が逆流し喘息も発症している。このケースに腹部を大きく切開することのない手術によってこの機能異常を解決してもらいたい。・・わかっているとは思うが何が起ころうとも当局は一切関知しない・・・それでは成功を祈る

STRATEGY

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fgs胃カメラでは食道内に多量の食物の貯溜あり通過障害を示唆した30歳台の 男性である。症状、上部消化管内視鏡検査、食道造影、CTその他の機能検査で『食道アカラシア』の診断がついている。保存的治療(薬物)、バルーンによる拡張術、ボツリヌス毒素の局所への注射などの治療法もあるが、もっとも確実で再発率の少ない手術療法を選択することにした。弛緩不全に陥っている下部食道の筋層を完全に縦に切開した後、胃液の食道への逆流を防止する噴門形成を行うこととする(Hellar-Dor手術)。そしてその手術を開腹しない完全腹腔鏡下に行うこととする。手術操作そのものは極端に複雑ではないが、食道粘膜に穴を開けないように注意すること、嚥下をスムーズにしそして胃液の逆流をさせないようにする機能を微妙に調整する必要がある。当然腹腔鏡下の縫合技術は必須である。

DOCUMENT

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ugi食道造影では食道の著明な拡張(青矢)と下部食道が著明に狭窄(赤矢)あり外来診療中、院内のPHSのベルがなった。着信は外線が入っていることを知らせるメロディーであった。『交換から○□病院の放射線科の☆※先生から電話が入っていますが・・』、『OKです、繋いで下さい』ということで電話をつないでもらった。なんでまた放射線科から・・??と思いながら話を聞いてみるとどうも食道癌が疑われてPET検査(Positron Emission Tomography)を行ったところ食道癌ではなくてアカラシアが疑われるとのことであった。そして、患者さんがこちらで治療を希望しているので紹介していいかという問い合わせであった。当然快くその患者さんを診させていただけるようにこちらからお願いした。後日、患者さんとご家族がPET−CTのフィルムとともに放射線科のDrからの診療情報提供書をもって来院した。事情を聞いてみると3年ほど前から嚥下困難(のどから食事などが落ちなくなる症状)が出現したため、近医で検査をしたところ逆流性食道炎の診断で内服治療が開始されたという。しかし、その症状はいっこうによくなるばかりか逆に悪化していったと。また、いつの間にか夜間の喘息が発症し喘息の内服治療も開始されたとのことであった。その間、体重は10kg減少した。ご本人の希望で食道癌などを心配して○□病院のPET健診を受けたとのことである。その結果放射線科のドクターの診断は食道に癌などを疑わせる腫瘤はなく、食道が著明に拡張し典型的な『食道アカラシア』と診断した。そして患者さんとご家族がいろいろ調べた結果腹腔鏡治療を希望してこちらへ来られたとのことであった。前置きが長くなったが、これがこのミッションの始まりである。早速オペ日程を調整という訳にはいかない。本当に診断は正しいのか、正しければどのタイプのアカラシアなのか、手術以外にも治療法はあるのでいきなり外科治療でOKかを検証する必要がある。そこで、まず、消化器内科の専門ドクターへ精査を依頼した。諸検査が行われて消化器カンファレンスの結lcs超音波メスで狭くなった下部食道の筋層を縦に切開しています。果、内科的治療よりも外科的治療がベターとの判断がなされ後日再度外科へと受診した。ご本人のこの3年あまりの辛い日々は大変なものだったらしく、今すぐにでも手術を受けてこの状態を改善したいということだった。手術日程をすぐにでも決めたかったが一連の検査で行ったCTで肺に多発する陰がある。肺結核も否定し得ない像だ・・・。体重減少や微熱とも関連しているかもしれない。呼吸器内科で大学の同期でもあるDr.iに相談した。・・・結局それは結核ではなく食道に溜まった食物が就眠中に気道に入り肺炎を起こしたものだろうという結論にいたった。そうであれば3年前から発症したという『喘息様の呼吸困難』も一連の理由で説明がつく。そして手術治療を行う準備は全て整った。手術は型どおり腹腔鏡下の下部食道筋層切開術を行うことにした。

全身麻酔がかかりオペは開始された。まず、臍上3cmの腹部正中に15mmの切開をおいて12mmのポートを挿入した。腹腔内をCO2で膨らませて空間を確保した後腹腔鏡を曽入してその空間を観察した。最近のデジタル映像技術は素晴らしく購入したばかりのドイツのカールストルツ社のハイビジョンカメラによる映像は本当に美しく肉眼でのオペには戻れなくなる。さて、その映像に見とれている暇はない。外科医の手となる鉗子やエネルギーデバイスを挿入するための腹腔内への道である『ポート』をさらに3本挿入した。食道と胃の境目あたりを慎重に観察しながら戦略を立てる。これは癌の手術のように病変を切除するオペではない。『機能を改善させる』オペである。だからオペによって失うものを最小限にしなければならない。特にこのオペでは食道周囲を通る重要な神経に損傷を与えてはいけない。まず、小網を切開して食道の後面を剥離し食道の背面にテープを通して食道を確保した。食道周囲の結合組織を丁寧に剥離しながら迷走神経、その肝臓へ向かう枝などを確認して確保した。そして目的である食道の筋層の切開へとdor逆流防止のために食道に胃を軽く巻き付け縫合しています。移った。まずは注意深く高周波メスで食道前面の筋層を丁寧に切開していった。粘膜まで切れてしまうといけないのでとても慎重な操作が要求される。ある瞬間すっと粘膜下の比較的軟らかい層へ入れた。鉗子である程度筋層と粘膜の切開をした後、ハーモニックスカルペル(超音波凝固切開装置)で弛緩不全になった下部食道筋層を縦に切開していった。その操作を食道の上流、下流に向けて行った。食道内にあらかじめ置いてあった胃カメラで切開の程度を確認すると下流の切開が足りないことが判明した。そのため胃に向かって切開を追加していった。胃に近づくにつれ筋層の方向が複雑になるため切開がやりにくくなる。そうこうしているうちに十分な切開がなされたと判断した。そしてこのオペの後半部分である噴門形成へ移った。胃袋の頂上である胃底部で今回切開した下部食道を取り巻き付けた。今回は型どおり食道の前から巻き付けるDor 法を採用した。食道壁や横隔膜などに一針一針腹腔鏡下に縫合をしていった。この手術では締め具合も微妙に調整する必要があるため胃カメラで確認しながら調整した。最後に不意の食道粘膜損傷などが無いかを確認して手術は無事終了した。

術後の経過は良好であった。術後の食道造影でも飲み込んだ液体が何ら問題なく胃へ落ちる極めてあたり前のことがもの凄く嬉しく思えた。退院後は食事は問題なく摂れるようになり、胸痛や喘息様症状も消失、そして体重も徐々に増加していった。

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laparo手術終了後のおなかの中の様子食道アカラシア(または単にアカラシア)は日本においては10万人に1人の頻度で発生するといわれている比較的まれな疾患だ。しかも、原因は分かっていない。まれではあるものの、医学部での試験には必ずと言っていいほど出題される疾患でもあるので知らない医者は殆どいないと思われる。症状としては食事が食道を通らなること、嘔吐、そしてこのケースでもみられたように気管支炎・肺炎を起こすこともある。時に胸痛も見られる。嚥下困難を来す食道の病気で最も多いのは食道がんであるが、食道がんが何か”もの”ができる『器質的疾患』であるのに対してアカラシアは食道に何かができるのではなくその働きが不調になる『機能的疾患』である。機能的疾患は見た目に変化が無いことが多く画像による診断がしばしば困難になる。そのため、今回のケースでも発症初期には胃カメラでは何ら所見がなく逆流性食道炎と診断されたこともある意味仕方のないことかもしれない。胃に近い下部食道が狭くなっているとは言っても機能的なものであって硬くなっているわけではない。そのため食道がんなどと違って胃カメラは容易に胃内へ通過する。粘膜面にも異常がなく診断は容易でない。当院へ来院したときは発症してからすでに3年が経過していたためバリウムやCTによる画像検査で食道は上部が著明に拡張して、胃に近い下部は鳥のクチバシのように細くなっている典型像を示したので診断は比較的容易だった。
 発症の原因が不明であるため、今でも根本的な治療法は見つかっていない。問題点は下部食道の筋肉が””けいれんを起こしたように収縮しているために飲み込んだ液体や固形食が胃へ落ちないことであるため、この『機能的に』狭くなった下部食道を広げてあげればその症状はとれるということになる。薬物でのいわゆる内科治療としては高血圧の治療に使うことが多いカルシウム拮抗ugi2術後の食道造影ではよく通るようになりました。赤矢頭の部分が広げた食道の部分です。薬や狭心症に使うことが多いニトログリセリン系統の薬を内服したり、本来生体には毒である『ボツリヌス毒素』を収縮した食道の局所へ胃カメラで観察下に注射する方法などが開発され行われてきた。これらの薬物療法はこの下部食道の過剰に収縮した括約筋を緩めるのが目的である。そして、薬物療法でない非手治療で比較的多く行われてきたのが『バルーン拡張術』である。下部食道で機能的に狭くなった部位に特殊なバルーン(風船)を入れて膨らませる治療法である。胃カメラ、またはX線透視下に食道を決まった時間、決まった圧、決まった太さで拡張するというものだ。確かに簡便で繰り返し施行可能である。薬物療法と違って、機械的に食道を広げる・・というよりは食道括約筋の繊維を外力によって離断させる治療だ。いわば食道を締め付ける筋肉を人工的に肉離れを起こさせているという感じだろうか!?。60%以上に効果があると言われているがやはり症状の再燃のため繰り返し行う必要がある。それと、機械的に食道筋層を裂いているのであるから治療を繰り返すうちに食道の線維化が起こって、いざ手術治療をしようとしたときには手術が容易でなくなることもあると言われている。今回はカンファレンスの結果、これらの全ての治療法と患者さんの状態を考慮して最初から外科治療を選択する方針となった。患者さんおよびご家族もその治療法を希望された。そして、来院時より腹腔鏡手術を希望されていたのでその治療を選択することとなった。腹腔鏡手術が生まれてからすでに20年が経過し、以前は特殊な技術であったこのアカラシアに対する腹腔鏡手術が一般化している。腹部食道は開腹手術だとかなり深い所にあるため大きな開腹(または開胸)を要する。しかし、腹腔鏡だと1cmあまりの太さしかないカメラで容易にその部位に到達することが出来る。開腹だと外科医の頭で無影灯の光が遮られこのような狭い奥はよく見えないこともあるが本当の『無影』手術が可能となる。また、ここ数年で出てきた腹腔鏡のハイビジョンシステムは肉眼を遥かに超える画像を提供する。そのため、以前言われていた立体視できないという欠点は殆ど意識することがなくなった。これくらい画質がいいと『片目』でも立体感が分かope scar術後の腹部の”きず”.1cm 前後の傷が複数箇所にあるのみ。るから不思議だ。いったい人の脳はどうなっているのだろう・・・と思ったりする。さて、話がまた脱線したが、手術はすでに完成されたものがあるのでわれわれ臨床の現場の医師はそれを正確に実行することがその役目だ。手術器械の発展といういわゆる『ハードウェア』もとても大事だが、手術手技といった『ソフトウェア』も重要なファクターだ。患者さんにとって今得られる最良の外科治療を提供するには、ハードのinnovation(イノベーション)とソフトのstrategy(ステラテジー)が必要だ。体に優しいMIS(Minimally Invasive Surgery)+Strategy+InnovatiON=MISSIONということになる。

(2009年2月オペ)

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