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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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adrenalectomy

MISSION

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今回諸君に課せられたミッションは以下の通 りだ。若い女性に人間ドックの血液検査で血清カリウムの異常が認められた。内科のほうで精密検査をしたところ左副腎からホルモンを産生する腫瘍が見つかったが症状は特にない。
このケースに最小限のキズ及び最小限の痛みで腫瘍を含む左副腎を切除してもらいたい ・・ただし何が起ころうとも当局は一切関知しない・・・、それでは成功を祈る

STRATEGY

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ext手術中の外の様子。直径1cmのカメラポートが1本と直径5mmの処置用ポートが3本で手術を行ないました。最終的なキズはこの4カ所です。今回は副腎(ふくじん)の切除である。臓器としてはサイズが小さく切除後の再建もないとはいえ、けっこう大変である。ひとつには解剖学的に体の奥深くにあること、周りには腎臓や膵臓、大血管等があり臓器損傷や大出血と隣あわせていること、そして今回の疾患は別 のものだが手術中に血圧や脈拍がコントロール不能になることがある”褐色細胞腫(かっしょくさいぼうしゅ)”などは麻酔医も含めて逃げてしまいたいオペのひとつである。今回は副腎に到達する経路として最も合理的な”後腹膜アプローチ”という方法で内視鏡下に行うことにした。

DOCUMENT

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adrenal gl副腎を剥離中の様子。まん中の丸いものが腫瘍である。ウルトラマンの左顎にパンチが入ったように見えるのは私だけでしょうか・・このケースは人間ドックの血液検査の異常をきっかけに見つかった”原発性アルドステロン症”という病気である。精密検査で左右の副腎のうち左側に原因があることがわかった。今回は左の副腎を切除するのであるが、たまたま副腎に球状の腫瘍も見つかった。これがホルモンを異常に分泌していることはないと思われたがこれも含めて左副腎を全摘することとした。手術は開腹ではなく内視鏡下手術を行うこととした。内視鏡手術にも大きく分けて腹腔鏡といって胃や腸等が存在するおなかの中を経由する方法と直接副腎の存在する後腹膜腔という架空の空間に直接到達する方法がある。今回は後者で行うこととした。これは後腹膜鏡下手術と言うことになる。

全身麻酔下に左の側腹部(わきばら)に1cmの切開をおいて後腹膜腔を仮想空間から現実の空間に変換する特別 な風船(バルーン)を適切な位置に挿入した。バルーンを徐々に膨らませて後腹膜腔を作成する。バルーンに空気を少しずつ送るたびに、透明なプラスチック製の頑丈なバルーン越しに少しずつ後腹膜に空間が作成されていくのが確認される。オートマチックに空間が作成されていく様子をみると風船の偉大さに感動を覚える。十分膨らんだところで風船の中の空気を抜いてバルーンを取り除いた。バルーンで作adrenal.tumor写 真右の黄色いボールが副腎腫瘍。中央付近の青白いのは副腎から出ていく大きな静脈です。今回のオペで最後の大きな試練(本文参照)の主役でした。成した空間に今度は炭酸ガスを送り手術のための空間を維持する。さらに手術を行うための直径わずか5mmのマジックハンド(鉗子:かんし)を3本その空間に挿入した。ここからが本番だ。バルーンで剥離不十分な部位 は2本の鉗子で剥離を追加する。この時点で膵臓はすでにこの空間の天井に持ち上がっている。泌尿器科のDrには日常かもしれないが、外科医にとってはあまり見ない風景だ。十分なスペースが得られたところで今度は腎臓と副腎を一緒に包んでいるカプセルを割り、その中に入っていく。カプセルの中には腎臓と副腎を保護するように多量 の脂肪が入っている。この脂肪のよろいをかき分け、腎臓の壁にあたる。それを内側、頭側に進んでいくと金色に輝く副腎に到達する。しかし戦いはこれからだ。ゆっくり、ゆっくりと副腎を周囲の組織から剥離していく。副腎に入る細い動脈は丁寧に超音波凝固切開装置(LCS)にて処理する。この手術のクリティカルポイントは出血させないことだ。決して急がず、たぶんここは大丈夫だろう・・などは禁句だ。石橋をたたくように進んでいかないと、いったん出血が始まると打つ手がなくなってしまう。ここが開腹手術との違いだ。かなり時間はかかったものの、なんとか最後のクライマックスである副腎静脈を処理するところまでたどり着いた。あと一本の血管を処理すれば終了というところまで来た・・野球で言えば9回裏2アウトランナーなしという状況だ。しかしここに最後の試練が待っていた。静脈にクリップをかけるためにレパーを引いてファイヤーをした。しかしクリップがアプライヤー(クリップを出す装置)から離れない・・軽く引っ張ってみたが血管がたわむのみだ・・・数秒間頭の中が真っ白になり体が凍り付く・・このままアプライヤーを無理矢理ひいてこの大きな静脈を引き抜いてしまったら大出血間違いない、そうなれば開腹しても止血は容易ではない。しかしここまできて開腹へコンバートするのも・・・とあれこれ考えた結果 、このままもう一度クリップをファイヤーすることとした。最後のかけだった。もちろんリスクはあった・・結果 は2個目のクリップが1個目の引っかかったクリップを押し出してくれた・・・ 助かった・・・

COMMENT

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ensocatch副腎と腫瘍を切除し終わって、それを体外に摘出するためにプラスチック製の袋に入れようとしているところです。 副腎の良性腫瘍の摘出術は胆嚢や脾臓摘出と並んで最も内視鏡下手術の利点を発揮できる手術である。内視鏡手術は手術対象が小さく体の奥深くに存在し切除の後の再建が不要であれば開腹術に比較して圧倒的に有利である。簡単にいえば深いところにある小さいものを取るだけで済む手術は内視鏡手術が適している。今回の手術も最大1.5cmのキズから手術を遂行することができた。これを開腹術ですると最低でも20cmの切開は必要である。背中側からのアプローチではもう少し小さな切開で済むが・・

ただ副腎は体の奥深くに存在していて胆嚢や脾臓と違いすぐに見える場所にはない。具体的には後腹膜腔といって脂肪組織に満たされた地中に埋蔵されている。この仮想空間を特別 なバルーンで広げその後その空間に炭酸ガスを持続的に送り空間を維持する。いわば東京ドームのような状態にしてその中でオペを遂行するのだ。今回行った後腹膜アプローチは一般 的に外科医には見なれない空間であるので自分がどこにいるのかが把握しにくいという特徴がある。しかしその3次元的な解剖をしっかりイメージできれば決して困難ではない。と、さもベテランのように書いてしまったが私の解剖学的な知識はまだまだ不完全で、そして疑問点も多い。私の尊敬する後腹膜手術の第一人者である佐倉病院の山田英夫先生の手術は華麗だ。器械であるはずの鉗子がまるで生き物のように動き、正確にそして迅速にオペ遂行する。鉗子は大きく動くが決して力は入っていないのがわかる。操作の途中に迷いはない。山田先生の手術はもうアートの領域だ。W.A.Mozartのシンフォニーのよう美しく、これはすでに神の手といってもいいだろう。生体腎移植のドナーの腎臓の摘出を見学したときは言葉も出なかった。

MISSION-i はまだまだ修行中であるがいつかあのようなエレガントなオペができるように日々修練していきたいと思っている。

(2002年)

mission foota