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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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cushing syndrome

MISSION

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今回諸君に課せられたミッションはこうだ・・
30代の女性である。右の副腎に腫瘍ができて、異常なホルモン分泌がある。このケースに腹部や胸部を切開せずに副腎摘出を行ってもらいたい・・わかっているとは思うが何が起ころうとも当局は一切関知しないので・・・それでは成功を祈る

STRATEGY

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adrenal tumorCTスキャン。右の副腎に腫瘍が見つかった(赤矢先の丸いところ)今回は30代前半女性のクッシング症候群のケースである。急激な体重増加、血圧上昇、血糖の上昇、体毛の増加、吹き出物などから診断にいたったクッシング症候群のケースである。今回の責任病変は右副腎腫瘍であることまでは内科で診断がついている。これを切除すればいいことになる。

副腎は後腹膜臓器であり後腹膜からのアプローチが最も理にかなっている。今回も後腹膜アプローチの最短距離で副腎へ到達し切除する戦略とする。右副腎のため副腎静脈は下大静脈に直接流入する。しかも、きわめて短いことが予測される。この静脈の処理が最大の難関だ。出血や二酸化炭素の静脈への流入は絶対に起こしてはならない。細心の注意が必要だ。

DOCUMENT

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lap adrenalectomy内視鏡(後腹膜鏡)で見た後腹膜腔。水色の矢印の先の丸いところが副腎の腫瘍2004年8月のある日、内分泌内科のDr.Yより声をかけられた。『クッシングの患者さんがいるんですけど・・お願いできませんか・・』という。クッシング病であれば脳下垂体なので脳神経外科ということになるが”クッシング症候群”となれば副腎なので外科(または泌尿器科)となる。今回はクッシング症候群ということになる。『ところで右ですか、左ですか?』と訪ねた。『右です・・』という答えだった。『右かあ・・・』と少しだけブルーになった。右の方が左よりオペの難易度が高いからだ。しかし戦わないわけにはいかないだろう。

後日、その患者さんとご主人が外科の外来へ受診した。内科のドクターよりすでに病状は聞いており、手術が必要であるとのことは説明済みで、患者さんやご家族も病気のことについてはよく理解されていた。僕の方からは病気そのものではなく、手術方法や考えられる術中、術後の合併症についてである。副腎を含めた副腎腫瘍を切除すること。副腎へ至るにはお腹を開けて副腎へ到達する方法、脇腹から入ってお腹の中を経由せずに直接副腎へ到達する方法。また大きく開けて手術する方法、内視鏡を用いて小さな傷で副腎を切除する方法。それぞれの方法の利点・欠点、リスクの大小等を説明した。手術前の患者さんを脅かしてしまうような言動は良くないが、やはりある程度は説明しないわけにはいかない。話し合いの結果開放手術(大きく切る手術)とほとんど切らない内視鏡手術のどちらを選択するかは”内視鏡手術”という結論になった。もちろん手術の安全性が確保出来ないときは途中から開放手術へコンバートすることもあると説明した。

adrenal tumor2切除した副腎と腫瘍(青矢印の先の金色の丸いところ)そして、手術当日がやってきた。全身麻酔がかかり患者さんは左を下にした側臥位として手術は開始された。あの”後腹膜の魔術師”東邦大学佐倉病院内視鏡治療センター教授、山田 英夫 先生から伝授していただいた方法で後腹膜腔へ入った。本来無いはずの空間を特別なバルーンで作成しオペのためのスペースを作成する。正しい道を進めば出血はほとんどない。腎と副腎を包んでいる膜を切開し、まず腎臓を確認。さらに奥へと剥離を進めて行くと横隔膜、そして肝臓と思われる臓器が出現してきた。脂肪組織の中に副腎があるはずだ・・・早くあの金色に輝く副腎を見つけたい・・早く楽になりたい気持ちをぐっと抑える。早く三振が取りたくてストライクばっかりを投げてホームランを打たれてしまっては元も子もない。とにかく、焦りは禁物だ。わずかな出血が術野を悪くし手術が続行不能となる。開放手術へコンバートするといってもそれも実は容易ではない。地雷を踏まないように慎重にオペは進められた。そしてやっと副腎とその腫瘍は見つかった。しかしそこからの道のりも実は長かった。副腎をとるためには動脈と静脈の処理をするだけなのだがこれがまた一筋縄ではいかない。特に副腎静脈の処理はこのオペでもっとも緊張する場面だ。動脈を数本、静脈を1本処理、摘出した副腎はプラスチックバッグへ収納して体外へ摘出された。・・・緊張感から解放されたのは手術開始から実に3時間以上が経過していた。

術後経過は良好で、痛みはほとんど無かった。・・私本当に手術したんですか?と患者さんはオペの翌日に笑顔で訊いた。苦労した甲斐があった・・と報われた瞬間であった・・苦あれば楽あり。

数日後何事も無かったように患者さんは退院され一度外来で術後のチェックをした後は内分泌内科へバトンタッチした。

COMMENT

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operation soo手術中の様子。ビデオモニターをみながらの手術人の体は外見上は左右ほとんど対称であるが内臓はそうではない。臓器には心臓のように一個しかないものと腎臓や肺のように左右2個あるものがある。副腎は後者であり右と左に分かれている。オペをする立場からすると(僕個人としては)右の方が左よりオペの難易度が高い。静脈の処理が難しいからである。一般的に手術において最大の敵は”出血”である。副腎の場合は特にそうであると考えている。。『右副腎』から体内で最大の静脈である『下大静脈』へ極端に短い静脈を経由して副腎の血液は直接流入する。もし、この静脈を損傷すると驚くほどの出血に見舞われることになる。そればかりか、内視鏡手術においては手術を行うための”空間”を確保するために多くは炭酸ガスをその空間へ持続的に注入している。その気圧が静脈の圧より高いとガスが血管内へ進入してしまうことになる。出血は見ていてすぐに気づくが、ガスの血管内への流入は見ているだけでは気づかないと思われるので注意が必要だ。このオペにおいては 1にも2にも3にも4にも5にも出血させないことが重要だ。特に静脈からの出血はさせないように注意深くオペを進行させることが重要だ。最大の難関は”副腎静脈を見つけること”そして”処理すること”だ。右副腎静脈はとても短いので注意が必要である。粗暴な操作でうまく血管を縛れないと不意の出血に見舞われてしまうと考えられる。そういうわけでこの手術は最後まで全く気が抜けない。ずーっと緊張が続く。慎重にことを進めると実に3時間以上も神経を高いレベルで緊張状態にせざるを得ない。

今回のオペが終わって緊張から解放されたときは、さすがにこれは毎日やれるオペではないな・・と思った。

scar adrenalectomy術後のきず。右側腹部に1cmの傷(青矢の先)5mmの傷が3カ所(赤矢印の先)でもやっぱり手術後の患者さんの元気な経過をみていると開腹手術とは比較にならないほど元気である。体表の傷も最小限で痛みもきわめて少ない。これらの事を見ているとやっぱり副腎は内視鏡手術に限るなあと確信した。

この患者さんは内視鏡手術で幸せになったか・・・答えはきっとYesであろう。醜い傷跡を残すこともなく、手術後の傷も目だたず、痛みも少ない。やはり内視鏡手術は偉大であると確信した。

(追記)数ヶ月後病院の駐車場を歩いているとある若い女性から”・・あの時は本当にお世話になりました”と声をかけられた。最初だれか全くわからなかったのだが、それは今回手術を受けられた患者さんだった。腫瘍の出すステロイドホルモンの影響で体重が著明に増えていたのだが、手術によってそれから開放された彼女は”僕の知らない”以前のスレンダーな若い女性に戻っていたのだった。

(2004年9月)

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