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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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du perforation

MISSION

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今回諸君に課せられたミッションはこうだ・・
47才の女性の汎発性腹膜炎である。十二指腸潰瘍穿孔が原因と思われる・・緊急事態だ ・このケースに開腹をしないで腹膜炎を治療してもらいたい・・わかっているとは思うが何が起ころうとも当局は一切関知しないので・・・、それでは成功を祈る

STRATEGY

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panpreitonitis腹腔鏡で見たおなかの中の様子。肝臓の周りには濁った腹水が貯溜しています。40才代女性の汎発性腹膜炎(はんぱつせいふくまくえん)である。十二指腸に開いた穴から胃液などの消化液がおなかのなかの空間に多量に漏れだして激しい痛みを伴っている。このまま放っておくと生命を脅かすことになるのは明らかである。詳細な病歴聴取や、理学所見の結果、レントゲン、腹部CTなどを総合的に判断し、十二指腸潰瘍穿孔の可能性がもっとも高いと判断した。これまで、病院にかかったことはないという。十二指腸の変形は軽度で幽門狭窄の可能性は高くないと思われた。本人は手術後に薬を飲み続けることができるとのことであった。これらより、全身麻酔下に緊急で腹腔鏡を施行し、十二指腸潰瘍穿孔の診断を確実にし腹腔鏡下に縫合閉鎖を予定する。もし硬くて縫合が不可能であれば大網を充填することにする。腹腔内は大量の生理食塩水で洗浄しドレーンは入れない方針とする。

DOCUMENT

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duodenal ulcer perforation十二指腸には5mm程度の穴があいて(赤矢)消化液が漏れていました。1月のとある水曜、その日のER(救急室)は多忙を極めていた。稲嶺は午前の外来診療が終わるやいなやERからコールされた。いつもに増してけが人が多く、その処置に追われていた。心肺停止で救急蘇生を要する患者さんや転落等での外傷も多かった。一息ついた時にはすでに午後11時50分を過ぎていた。やれやれ、ちょっと休憩して運がよければ朝まで眠れるかもしれない・・と思っているのもつかの間、内科の若い当直の先生から呼び止められた。”腹痛の患者さんがいるんですけど、ちょっと診てもらえませんか・・””もちろん”ということで救急室内のその患者さんのベッドに向かった。患者さんをみると、それほど重傷感はない。”さっき診察したときは激しくおなかを痛がってとても横になれる状態ではなかったんですけど・・現在の痛みは右側副部から下腹部にシフトしているようです”と内科当直の若い先生は説明した。本人に症状の推移を聞いたところ、午後9時ちょっと過ぎに突然激しい痛みが出現したという。いたみは2日前からあって食事はほとんど摂れなかったという。これまで病院にかかったことはないという。これは、もしかして・・と患者さんのおなかに触れた瞬間”緊急オペだ”と思った。おなかが石のように硬くなっている・・ドンペリもとい、パンペリ(panperitonitis;汎発性腹膜炎)だ。この瞬間朝まですやすや眠れるのではないかというはかない夢は消えてしまった。すぐに外科医とOR(オーアール:手術室)の看護師さんと外科スタッフをコールした。時計はすでに0時半を過ぎていた。

sutring of du ulcer十二指腸に開いた穴を腹腔鏡下に縫って閉鎖しているところ。合計4針の縫合が必要でした。洗浄後は大網パッチも併せて行いました。全身麻酔がかかりオペが始まったのは午前2時前であった。臍下に1cmの切開をおいて腹腔鏡を挿入し腹腔内(おなかの中)を観察した。やはり、上腹部を中心に濁った腹水が多量貯留している。大網がすでに十二指腸球部の全面をカバーしていた。念のため下腹部、骨盤腔をみると腹水はあるものの、上腹部ほどは汚染されていない。やはり十二指腸潰瘍穿孔だろう。右側副部に10mmのトロカール、左側副部に5mmのトロカールを刺入して手術を続行した。十二指腸全面の大網を剥がすと予想通り、十二指腸には円形に打ち抜かれた典型的な穴が開き、その部位から腸液が漏出していた。鉗子でふれてみるとまだその壁は柔らかく縫合可能と判断した。4針の体内縫合でその穴は閉鎖された。エルクのトレーニングコースでの縫合トレーニングの甲斐があってそれほど労せずして閉鎖は完了した。腹腔内にもれた汚染された胃液、腸液を可及的に吸引し、大量の生理食塩水で洗浄した。これが結構時間を要した。腹腔内がきれいになるまで何度も何度も洗浄を繰り返した。これをいい加減にすると、腹膜炎のコントロールができないばかりか、術後腹腔内に膿瘍が発生する可能性がある。納得いくまで洗浄した後、大網を穿孔閉鎖部位に逢着して手術を修了した。後は小さな傷を縫ってあっという間にオペは修了した。

手術後の経過は予想以上に良好であった。術前に激しい痛みを訴えていたが、術後は全く痛みを訴えず、術後1日目に飲水を開始、術後2日目には食事を開始した。その後も順調に回復し1週間で退院した。


COMMENT

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operation soo手術中の外の様子パンペリ、つまり汎発性腹膜炎は概して緊急事態である。迅速に適切な治療をしないと死にいたることもまれではない。その多くが胃や腸といった消化管の穿孔(せんこう:穴があくこと)によって発生する。それらにも胃や、十二指腸といった上部の消化管と虫垂や大腸といった下部の消化管では、病態も治療法もだいぶ変わってくる。今回のケースでは本人の話を聞いただけでほぼ潰瘍穿孔が疑われ、患者さんのおなかに触れた瞬間に確信した。もちろん、客観的な視標を得るためにレントゲンやCTをしたのはいうまでもない。

十二指腸潰瘍の治療といってもその病態によって千差万別である。内服薬を続けるのみでいい場合もあれば(その場合がほとんどである)、最近ポピュラーになった”ヘリコバクター・ピロリ菌”を除菌することによって十二指腸潰瘍の再発を防止したりすることも多くなった。しかし、手術を要する十二指腸潰瘍は一部存在する。一つは慢性的に潰瘍を繰り返し、徐々に十二指腸が変形・狭窄することによって、食物の通り道が狭くなり、その結果、胃が高度に拡張し食事が摂れなくなる人がいる。いわゆる幽門狭窄の状態である。そうなれば、もはや薬物治療で治癒することはないので狭くなった道を広げる手術をせざるを得なくなる。
そしてもう一つの手術を要する十二指腸潰瘍は今回のケースのように、十二指腸に穴が開いたり出血をしてしまう場合である。これは緊急事態であるのでできるだけ早く手術することが望まれる。時間がたてばたつほど患者さんの容体は悪化し、治療の遅れは最悪な結果をもたらす可能性がある 。

port site手術が終わった直後のおなかの傷。1cmが2カ所と5mmが1カ所の合計3カ所の小さな傷。一時期このような、十二指腸潰瘍穿孔による腹膜炎でも手術をしないで鼻から胃に通したチューブを持続的に吸引し胃薬を投与することによって治癒せしめることが可能であるということが報告されセンセーションを巻き起こしたことがあった。確かにそのような治療で腹膜炎は改善し開腹手術をしなくて済むケースがあったことは事実である。しかし、すべてのケースには適応できなかった。十二指腸に大きな穴があいて、消化液がどんどん漏れて腹膜炎が高度なケースにおいてはこの”無手術治療”はきわめて危険であり、実際最悪の結果をもたらしたケースも報告された。手術が必要なケースと不要なケースの鑑別が困難であった。

しかし、このような手術をする、しないの大きな悩みは内視鏡手術の登場により解消された。1cm程度のきわめて小さな傷からおなかの中に漏れた消化液や食物がきれいに洗えて、十二指腸に開いた穴も自然に閉じることを待つことなく直接縫合、閉鎖することが可能となった。その結果、患者さんの入院期間は驚くほど短くなった。今回のケースでも術前の激しい痛みが嘘のように翌日からは歩行し、2日で食事が開始され1週間で退院した。十二指腸潰瘍穿孔による汎発性腹膜炎においての緊急手術この手術が行える施設であれば、この手術以外の選択肢は無いと思われる。

(2004年1月)

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