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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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gastric volvulus

MISSION

MISSION

strategy
今回諸君に課せられたミッションはこうだ。腹痛と嘔吐を訴え救急搬送されてきた男性だ。どうも胃が回転して捻れて胃内容物が通っていかないようだ。これをおなかを大きく切開することなく元に戻してもらいたい。・・わかっているとは思うが何が起ころうとも当局は一切関知しないので・・・それでは成功を祈る

STRATEGY

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70歳代の 男性である。何らかの原因で胃が捻転を起こしている。胃カメラによる整復もトライしたがすぐに再発した。胃カメラでは胃の虚血の所見もあるようだ。腹腔鏡下に胃のねじれを解除して元の位置にもどして腹壁や横隔膜に縫い合わせて固定すればよいと思われる。腹腔鏡下に縫い合わせる技術があれば決して難易度の高い手術ではない。

DOCUMENT

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ugi胃が捻れて上下が逆さまになっている当直業務で夜間医局の休憩室で内科のドクターに声をかけられた。他院に入院中の患者さんであったが嘔吐と腹痛を訴えるとのことで紹介されたという。いろいろ検査した結果、胃の軸捻転の診断が得られたらしい。捻れた胃を胃カメラを使って元にもどしたもののすぐに再発して多量の嘔吐は改善しなかった。食事が全く取れないばかりか鼻から胃に挿入したチューブ(胃管)から1日になんと2リットルもの胃液が出てくるという。そこでなんとか手術で治せないかとのことであった。早速諸々の検査結果を確認後、病棟へ行き、患者さんを診察すると確かに経鼻胃管が挿入されて多量の胃液が排出され、そのため多量の点滴を必要としているようだった。このままではどうしようもない。もし、殆ど寝たきりで口から食事を摂らないひとだったら胃カメラで胃瘻を作成したほうがいいかもしれないと思ったが、ご家族へ確認すると非常に食欲は旺盛という。これはオペしたほうがいいな、と判断した。

緊急性は無かったので足りない検査や全身状態の補正など十分な準備をしてからオペをすることにした 。
全身麻酔がかかり手術が始まった。臍下に1cmの切開をおく。白線を縦に切開して12mmのポートを挿入する。いつもの操作で8mm Hgの炭酸ガスを腹腔内へ送り手術に必要な空間を確保した。次に外科医の右手と左手、そして助手のポートを挿入する。胃を縫う必要があるので直径12mmのトロカールをひとつ挿入する必要がある。他は持針器や鉗子を入れるだけなので出来るだけ細いポートを挿入した。合計4ポートでオペを行った。

suture胃を正しい位置で腹壁に縫い合わせて固定しているところおなかの中を観察すると、中等量の腹水があったのでこれを吸引した後に胃を観察した。すると、横隔膜から左腹壁に緑色の糸がいくつか残っている・・・。あれ、これはオペされているぞ・・・、と気づいた。術前に手術の説明をしたときには何もおっしゃらなかったが・・・。いったいどのように捻れているのかを観察する。すると胃の出口に近いところ(前庭部)が胃の一番高いところ(胃底部)を乗り越えて横隔膜のところにはまりこんでいた。専門的に言うと短軸捻転とか間膜捻転というタイプだった。静かに鉗子で胃を引っ張ってくると容易に胃はほぼ元の形に戻った。しかし、これからが本番だ。また捻れてしまわないように胃を周辺の組織に縫いつけて固定する必要がある。このケースは以前他院で同じ手術をして再発してしまったようである。そこで、また同じことを繰り返さないように吸収される糸ではなく永久に残る糸で胃を縫いつけることにした。腹腔内に15cm2-0エチボンドを導入して横隔膜から左腹壁に次々と胃壁を縫合固定していった。最後の前提部の固定はカメラが近かったのでエンドクローズを用いて腹壁外へ糸を出して皮下で縫合した。手術は予定通り終了した 。

術後の経過はきわめて順調であった。傷の痛みは全く訴えず、胃液も胃管から出なくなった。造影検査でもある程度胃の形は正常になり流れもスムーズになった。術後2日目より食事を開始したが、全量摂取可能であり、嘔吐も全くなかった。劇的に症状は改善して数日後もとの施設へ転院となった。

COMMENT

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ope手術中の様子”ちょうねんてん”(腸捻転)という言葉は意外と有名で腸閉塞よりも一般の方には通じることが多い。虫垂炎より”モウチョー”がポピュラーであるのと少し似ている。しかし、腸閉塞の中でも捻転はかなり少ない印象である。S状結腸捻転や小腸の捻転は時々経験するが胃の捻転はかなり少ない。レントゲンやCT等で胃の上下がひっくり返った形になるのが特徴で"upside down stomach"つまり逆さま胃とも呼ばれる。

今回のケースは典型的な胃捻転であり診断は比較的容易であった。問題は治療方法である。手術を避ける方法としては捻れてしまった胃を胃カメラを使って元に戻す方法がある。今回もこれを行って一時的に治ったものの、すぐに再発してしまったため手術を選択せざるを得なかったのだ。

ただ、手術といってもおなかを大きく切開しなければそれほど患者さんに与えるストレスは大きくない。臓器の切除や吻合はないので安全性も高い。この疾患は腹腔鏡手術のいい適応と考えられた。ただし、針と糸を使って縫う技術が必要になる。

腹腔鏡手術の中でも糸を結んだり臓器を縫ったりすることは難易度の高い技術だと言われている。しかextキズは1cm前後が4カ所し、数々の厳しい場面で縫合が必要なオペの修羅場を踏んできた内視鏡外科医にはこのオペは決して困難ではない。内視鏡下に縫合することができればこの手術はむしろ楽だ。

今回も内視鏡手術のパワーが発揮されたと言っていいだろう。手術の前後では全く状況が変わった。1cm前後の4カ所の傷は確かに残った。しかし、食事を摂れないことから一気に開放されたことの代償としては大きくはないと想われる。

胆嚢摘出術を始めとする内視鏡手術の多くは結紮(けっさつ)、縫合(ほうごう)の技術を必ずしも必要としない。しかし、このような患者さんたちのためにその技術はどうしても必要である。内視鏡手術が出来る環境にいるのに、縫えないからといって開腹手術をしてしまっては患者さんが可哀相である。このようなことを少しでも減らすことができるように僕自身も常に技術向上の努力を日々継続することは当然であるが、これまで得てきたノウハウを内視鏡外科を目指す人々に伝えて行かなければならないと思った。

(2008年1月)

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