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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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gastric wedge resection

MISSION

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strategy
今回諸君に課せられたミッションはこうだ・・
50才の男性の胃粘膜下腫瘍である。サイズは小さいが質的診断はついていない。このケースに開腹を一切しないで胃の粘膜下腫瘍を切除してもらいたい・・わかっているとは思うが何が起ころうとも当局は一切関知しないので・・・、それでは成功を祈る

STRATEGY

STRATEGY

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今回は50才の男性の胃に発生した腫瘍がテーマである。腫瘍といってもガンではない。粘膜下腫瘍(ねんまくかしゅよう)と呼ばれるグループである。胃カメラやCT等で腫瘍は胃の前壁で胃の出口に近い場所にあることがわかっている。また胃の外側に突出しサイズも3cm以下である。内視鏡外科医にとってはかなりありがたい大きさや腫瘍の位 置である。ストレスのあまりない手術が可能であると予測される。まず腹腔鏡を入れて腫瘍の存在部位 を確認、腫瘍を持ち上げてリニアステイプラー(エンドGIAかエンドカッター)で切除する方針とした。おそらく2cm以上の開腹は不要であると予測される。しかし、決して気を緩めてはいけない。いろいろなトラブル等が起こったときの対処もできるように十分な準備をしておく。

DOCUMENT

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gastric wedge卵形の部分が粘膜下腫瘍。腫瘍を特別な器械でオートマチックに切除、同時に胃壁の縫合を行う。器械の下は胃袋。人間ドックの胃カメラで胃の粘膜下腫瘍が見つかったということで2次精査目的で当院の消化器内科を受診した。消化器内科のDr.JI(ジェイアイ)によって精密検査が行われた。胃カメラで粘膜下腫瘍は胃の出口に近いところにある。胃カメラの先端から超音波を出して胃の壁の微細な構造をテレビモニターに描出することができる超音波内視鏡も同時に行われた。その結果 粘膜下腫瘍の大きさは約2.5cmで胃の外側に突出していることがわかり、胃の筋肉(平滑筋)と連続していることも確認された。バリウムを飲んで胃のレントゲン写 真をとる胃透視や腹部の輪切りのレントゲンであるCTスキャンも行われたがそれ以上の情報はなかった。大きさ的には5cm未満であり、どちらかといえば良性のことが多いが確定診断をつけられない。Dr.JIは6ヶ月経過をみて再度精密検査をすることを勧めたが、本人はもし、簡単に取れるのであれば手術を希望する、とのことであった。一応、外科再度の意見も聞きたいとのことで外科へ紹介となった。本人との話し合いの中で、腹腔鏡下に腫瘍を含む胃の一部を楔状に切除する、つまり診断と治療を同時に行う方針となった。

全身麻酔下に手術は行われた。いつものように臍下に1cmの切開をおいて直径10mmのカメラポートを挿入した。8mmHgの炭酸ガスを腹腔内に送り、手術のための空間を確保した。腫瘍の位 置が早く知りたいという、はやる気持ちを抑えて、ゆっくりと腹腔鏡をポートから挿入した。・・・結果 は最も切除が 容易であると考えられる位 置に腫瘍は鎮座していた。しかも細い茎を有しており、切除にはかなり有利でreseted specimen切除直後の腫瘍と胃壁の様子。出血も皆無である。あると考えられた。右側副部に12mmのポートを挿入、左上腹部には助手用の5mmポートを挿入した。合計3カ所のポートで手術を行うこととした。助手の鉗子で粘膜下腫瘍の茎を把持し腹側につりあげでもらい、切除が容易にできるようにした。右側副部のポートからEndocutterETS_Flex 45_3.85という自動切除縫合器を挿入し腫瘍を切除すると同時に胃壁の縫合を行った。トータル2回のファイアーで切除可能であった。胃壁の切断面 からの出血はほとんど認めかった。手術はわずか35分で終了した。

手術後の経過は良好で傷の痛みはほとんど訴えず手術翌日から術前と同じように歩行可能であった。病理組織検査の結果 は通称GIST(ジスト)と呼ばれる腫瘍であることがわかった。術後経過問題なく1週間で退院した。胃の切除範囲がきわめて小さいため食事も術前と何ら変わらず摂れるし本人の満足度も高かった。


COMMENT

COMMENT

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消胃粘膜下腫瘍、通 称SMT:エスエムエィー(Submucosal Tumor)と呼ばれる疾患はけっこうやっかいである。なぜなら大方、手術で腫瘍を切除して初めて診断がつくことがほとんどだからである。胃ガンの場合は腫瘍の本体が胃の内側にあるので胃カメラで観察しながら腫瘍の一部を切除(生検:せいけん)し、顕微鏡検査(病理組織検査)にてほとんどのケースで診断がつく。しかし、今回のように胃の外側に突出する腫瘍に胃カメラは打つ手無しである。今回のケースのように超音波内視鏡を行ったにしても、大きさや胃壁との関係は見える(存在診断・部位 診断)ものの、悪性なのか良性なのかの質的診断までは至ることはできない。。

良性であればよっぽど大きくなければ経過観察としたいところであるが、先に述べたように手術をしなければ診断がつかないというところがつらいところである。内視鏡手術が登場するまでは、胃ガンの手術のように腹部を20cm以上も切開しこのような腫瘍を切除していた。しかし現代は腹腔鏡をはじめとする内視鏡手術の発達が著しく、今回の手術のように腹部を大きく切開することなく、ものの30分で手術は終了してしまう。以前は手術侵襲(しんしゅう)を考慮し5cm以上の比較的大operative scar術後2週間の腹部の様子。傷は臍下に1cm、右側副部に1cm、左上腹部に5mmの3カ所で殆ど目立たない。きな粘膜下腫瘍は悪性の可能性が高いので手術4cm以下の小さなものは経過観察としている時代があった。しかしこの大きさに、悪性・良性の根拠は全くない。小さくても悪性の振る舞いをする腫瘍はあるはずだし、その逆のケースもあるだろう。実際、今回切除した粘膜下腫瘍も、最近話題となっている通 称GIST:GastoroIntestinal Stromal Tumor、日本語では消化管間質性腫瘍であった。決して良性とは言えず悪性のポテンシャルを持った腫瘍である。

このように比較的容易に短時間で安全に小さな傷で胃の腫瘍を切除できるようになったのは先人の努力のたまものである。今回使用したリニアステイプラーなどの器械の発達や、それを促した内視鏡外科黎明期、ある意味変人扱いにも耐え抜いて傷が小さいことの意味を深く理解し、その信念を貫き手術法の開発を行った多くの外科医の努力あってのものである。僕はその蓄積された技術をただ患者さんのために適応しているだけである。

今回の切除法は内視鏡外科の世界ではあまりにも有名で伝説にもなっている故・大上先生がリンパ節転移の可能性がきわめて低い早期胃癌の切除のために開発・普及させたLesion-lifting法という切除法に類似している。もし胃の後ろ側や食道の近くであればまた別 のストラテジーで望まねばならない。

今回の粘膜下腫瘍にみられるように、内視鏡手術の出現・発達は手術侵襲だけでなく手術適応までも変えようとしていることは驚異であると言えるだろう。

(2003年)

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