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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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LADG CABG

MISSION

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strategy
これまでのミッションにはなんとか対処できていたようだが今回はまたかなりの難題だ・・。
70歳代の男性で糖尿病、高血圧、動脈硬化症がある。他院で準緊急的に心臓の環状動脈のバイパス手術を行い2週間で退院した。食欲不振あり胃カメラをしたところ大きな胃がんが見つかった・・実に心臓の手術から23日目である・・・このケースにおいて体に侵襲(しんしゅう)、つまり肉体的ストレスを最小限でガンを根治させる外科的治療をしてもらいたい。くり返すが姑息的ではなく根治手術、つまりしっかりガンを治す治療をするように、
 ・・ただし何が起ころうとも当局は一切関知しないので・・・、それでは成功を祈る

STRATEGY

STRATEGY

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ugi手術前のレントゲン写 真。バリウムを飲んで胃の写真を撮っています。赤い矢印で示した凸 凹の部位が胃がんです。今回の戦略は容易には立てられない。患者さんは大手術が終わったばかりで肉体的、精神的にかなり消耗している状態だ。高血圧、糖尿病、閉塞性動脈硬化症、肥満などがありかなりのハイリスクケースである。しかし胃がんであることは間違いない。しかも早期胃がんではなく進行癌の可能性が高い。待てば待つほど病気は進行し、手術をしても治癒する確立は低くなる・・すでに肝臓やリンパ節に転移が成立しているかもしれない。普通 に考えればガンそのものを治すためには進行癌であれば当然大きくお腹を切開しリンパ節郭清(かくせい)を妥協することなく遂行しなければならない。しかしそうすれば当然、手術後のキズの痛みは大きく、回復は遅れ肺炎その他合併症を併発するリスクは高くなる。ガンの根治性(こんちせい)、つまり確実に治すことと低侵襲性(ていしんしゅうせい)、つまり体へ与えるストレスを最小限にすることは相反するので、そのバランスが今回のミッションでは最大のテーマだ。どこまで攻めてどこで引くのか、それが問題だ!

DOCUMENT

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specimen gastrectomu摘出した胃を開いたところです。黄色い矢印で示したところに最大径4cmの腫瘍がありました。2003年1月4日、新年早々の医局でストーリーは始まる。病棟の回診を終わり医局に戻るや否や循環器内科のDrより呼び止められた。胃がんの患者さんがいて内視鏡で手術をしてもらえないかという・・内視鏡下胃切除の普及につとめ3年目に突入したところでやっと病院内に浸透してきたかあ、と喜んでいるのもつかの間、数分後には頭の中が凍りつくこととなる。患者さんは70歳代の男性で長年、糖尿病や高血圧を患い近医で通 院治療中という。動脈硬化も著しく足に行く血液の流れが不良で、連続して100mしか歩けないという。(ここまではまだ許容範囲だ)、しかも1ヶ月以内に心臓のバイパス手術を受け退院したばかりという。当然のことであるが本人は手術はもう勘弁してほしいと言っていると。
このケースに、例の内視鏡手術はできないか?と循環器内科部長は言う・・・とにかく患者さんと家族に会って、もう少し検査データ等を総合的に解析して総合的に判断させてください、とその場は即答することはできなかった。

後日、患者さんご本人と家族の方が一緒に病院に来られたれたので、今回の病気の性質について時間をかけて説明した。話の流れから、このケースでは真実を本人に伝えるべきだと判断しガンであるという告知も行った。・・もう死んでもいいから手術は受けたくない、と本人は言う・・ 家族は ”父ちゃん、お願いだからもう一度だけ頑張ろう・・”と言う・・。本人の気持ちを察すると無理に勧めることもできない、しかしこのままだと確実にガンは進行し全身に広がり不治の病となってしまう・・今ならまだ治るかもしれない・・放っておくとその過程で本人はかなりの苦痛を強いられることになる。手術を受けない場合予測されるこれからの経過、そして手術を受けた時のリスクについても詳しく説明した。結局、当然といえば当然であるがその日には答えは出なかった。

dissecting lymphnode胃とともに 摘出した胃の周囲のリンパ節を紙の上に並べています。幸い摘出したリンパ節にはガンの転移は認められませんでした。2週間ほど経った1月下旬、突然ご本人と家族が再度外来を受診した。何度も家族で話し合った結果 手術を選択したい、とのことであった。本人もなんとかもう一度がんばりたいとのことであった。
問題はこれからだった。手術とはいえ、どんな術式で臨めばいいのか、根治性の点からは定型的な開腹術というのが正論ではある。しかし本人は小さなキズで痛みの少ない方法でやってほしいと希望している。究極の選択だった。いい加減な””逃げ の手術をするわけにはいかない。しかし過大な侵襲を与えて大きな合併症をおこすわけにもいかない。短期的にも長期的にも満足の得られる治療を選択したい・・・

結局、お腹の中にカメラをいれてリンパ節郭清と血管処理を行い、お腹に5cm前後の小さな切開(通 常の手術ではその約5倍の切開が必要)をおいてガンを含んだ胃を切除し再建を行う腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(LADG:エルエーディージー)を選択することとなった。

比較的お腹の中の脂肪が多かったことと胆嚢周囲の炎症性癒着が強かったので手術は比較的難渋したが無事終了した。気になるキズの大きさは6.5cmと通 常のLADGよりは少し大きくなった。

手術後の経過であるが紙面(画面)の関係で詳細は述べないがきわめて良好であった。予測された合併症はとくに起こさず3日目から経口食開始、その後の回復も順調で手術から10日目に退院することができた。

COMMENT

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operative scar手術後おなかにできたキズ。青い矢印から赤い矢印までのところが今回の手術でできたキズです。青い矢印から上のキズは心臓の手術を受けた際に発生したものです。今回の手術でのキズは6cmでした。 内視鏡手術が発達してきたとはいえ、まだお腹を大きく切開するいわゆる開腹手術に劣るものがある。それは”リンパ節郭清(かくせい)”、つまり胃の周りのリンパ節(リンパ腺ともいう)を取る技術である。どうしてリンパ節を取らなければならないか?という話しになると1日あっても足りないので今回は割愛するが、とにかくリンパ節をとることにおいては一般 的にはまだ開腹術のほうが有利である。(施設によっては開腹術に勝るとも劣らないレベルのリンパ節郭清を可能にしている。)リンパ節転移の可能性がきわめて低い胃がんには胃カメラでガンを切除することが可能であるがその適応基準はかなり厳しく今回はその条件は全く満たさなかった。

今回のケースでは腫瘍のサイズや形態から早期ガンではなく進行ガンであると予測された。こういったケースでは 胃カメラでガンを切除するEMR(イーエムアール)という治療はおろか今回施行した腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(ふっくうきょうほじょかゆうもんそくいせつじょじゅつ)LADGは本来、原則としては行ってはならないことになっている。胃がん治療ガイドラインに従えば当然開腹手術であろう。しかし今回はかなりハイリスクであり何より本人が腹腔鏡下での胃切除術を希望しているということがポイントだった。ただ、ガンの根治性はできるだけ高めたいと思ったので通 常のLADGよりリンパ節郭清をしっかりするという方針とした。(実は私の実の父も”早期胃がん”と診断されて(私がまだ医学生だった頃)手術したにもかかわらず手術から4年後にリンパ節転移で再発し亡くなったという苦い記憶がある)

術後の経過は驚くほど良好であった。手術翌日に独立歩行できなかったのをのぞけば、ほぼ満足の得られる結果 であった。摘出した胃の病変と胃の周囲のリンパ節を病理(顕微鏡検査)で詳しく調べた結果 、 腫瘍のサイズが4cmのボールマン1型と呼ばれる進行癌であると思われたが、実は早期胃がんであることが判明した。しかも摘出したリンパ節には全く転移は認められなかったとのことであった。結果 的には必要かつ十分の適切な手術がなされたと思われた。
通常の開腹手術に比較してキズは小さく、痛みも少なかったので術後の回復は早かった。3日目から 経口食を開始、その後も順調で手術から10日目にめでたく退院。

今回のケースは決してほめられたものではない。いつでもこのケースのように”結果 オーライ”というわけにはいかないだろう。できる限り原則は守らなければならない。とはいうものの、このケースから学んだことは心臓のバイパス手術を受けて1ヶ月ちょっとしか経っていない患者さんでもLADGは厳重な注意のもとでは安全に施行可能である、ということであった。

(2003年)

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