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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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LAC-LC

MISSION

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今回諸君に課せられたミッションはこうだ・・
80歳代の女性が下血をくり返している・・今回で3回目だ。原因は大腸の憩室からであり出血部位 も分かっている・・また胆石もあり時々強い腹痛もある。実は以前心筋梗塞をおこし現在抗凝固薬を内服中である・・このハイリスクケースに最小限の開腹で胆嚢と大腸を同時に切除してもらいたい ・・わかっているとは思うが何が起ころうとも当局は一切関知しないので・・・、それでは成功を祈る

STRATEGY

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BE大腸のレントゲン写真。おしりからバリウムと空気を入れて撮影しています。黄色い三角印の場所が憩室です。赤い三角印は今回の出血点を示しています。今回は82歳女性の下血のケースである。以前から大腸に複数の憩室があり出血をくり返しているという。数年前に心筋梗塞をおこしたということで現在血液が固まりにくくする薬(抗凝固薬)を内服中である。今回の出血もこの薬の作用と密接に絡んでいると思われる。高齢・高血圧・心筋梗塞の既往・抗凝固薬内服・・できれば避けて通 りたいケースである。しかも胆石症と憩室症のダブルである。一度で2つの問題をクリアしなければならない・・幸い消化器内科の先生が一時的に大腸からの出血を大腸カメラのテクニックで止血してくれているのと胆石発作はあるが胆嚢炎の所見はない・・腹腔鏡で同時にできるかもしれない・・まず胆嚢摘出術を短時間で終了させ集中力を切らさないように大腸のオペに移ろう。それぞれのオペそのものは技術的には確立されているがハイリスクケースで2つのオペを連続して行わなければならない点が今回の山だ。

DOCUMENT

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CF clip大腸カメラで観察した大腸の中の様子。憩室(けいしつ)という窪みから出血をきたしていました。写 真は止血用のクリップ(金属の洗濯ばさみのようなもの)で止血をしているところです。オペは全身麻酔下におこなわれた。臍下に約1cmの皮膚を切開し直径12mmのシース(筒)を挿入する。腹腔内(ふっくうない)に8mmHgの圧で炭酸ガスを送り腹腔内にオペを可能にする空間を確保する。そのポートから直径1cmの高性能のカメラを挿入しおなかの中の空間を観察する。みぞおちの下あたりと右上腹部に5mmのポートを挿入した。まずは胆嚢摘出術である。幸い胆嚢炎はおこさなかったようで胆嚢と周囲の臓器(大腸や十二指腸、肝臓)との癒着は軽度であった。大腸のことは忘れ、とにかく胆嚢摘出術を遂行することに集中した。このオペは10年以上もやっているが決して簡単ではない。口が裂けても”楽勝”などとは言ってはいけない(考えてもいけない)。胆嚢の周囲は火種がいっぱいだ。総胆管を損傷したりすると大変なことになる。どんなに多くをこなしていても、出血もなく胆嚢を破らずに摘出したときにやっと緊張から開放される。今回も何のトラブルもなく2cmの石を容れた胆嚢を切除できた。いつもならこのまま胆嚢を臍の下のキズから体外に摘出するのだが大腸の手術の時に左下腹部に5cm前後の開腹をおくのでそれまでは胆嚢をおなかの中に置いて置くこととした。

さて引き続き大腸のオペである。緊張感をキープしつつ頭の中を切り替えなければならない。腹腔鏡のモニタ(テレビ)を患者さんの右上から左下に移動する。オペレータも逆の位 置に移動する。大腸を剥離するための道具をおなかの中に出し入れするための直径5mmのシース(筒)を2本追加した。今回はガンではないため、リンパ節を取る必要がないので大腸が背中側に固定されているのを解除するだけの操作である。切除予定の大腸が十分フリーになったところで左下腹部に5cm程度の切開をおいて開腹した。体外specimen切除した大腸と胆嚢を切り開いたところです。大腸には止血に用いた”クリップ”が残っています。胆嚢内には黒い2cmの胆石が1個入っていました。 に自由になった大腸を引き出す。止血のために大腸の中に残っている金属製のクリップが目印だ。腸の外から静かに触れてクリップを探す。比較的容易にクリップが見つかった。あとはクリップの位 置と手術前のレントゲンを見比べて適切な範囲を切除すれば終了だ。その後も予定通 りに手術は完遂した。

手術後の経過は良好であり心配された心臓関係の合併症も起こさなかった。キズの痛みも軽くオペの翌日から歩行が可能で2週間弱で退院した。

COMMENT

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operative scar術後の腹部の傷のようす。左下腹部には大腸を取り出した4cmのキズがあります。臍下にはカメラを入れた1cmのキズがありその他にも4カ所の5mmのキズがありますがほとんど消えかかっています。今回のケースは胆石症に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術(ふっくうきょうかたんのうてきしゅつじゅつ)いわゆる”ラパコレ”と大腸憩室症に対する腹腔鏡補助下結腸切除術(ふっくうきょうほじょかけっちょうせつじょじゅつ)いわゆる”ラパコロン”"LAC"である。どちらの術式も技術的には確立され安全・確実にとり行われるようになってきている。それぞれのオペをただ連続して行うだけなのであるがやはり単純ではない。本人の体力の問題、手術機器のセットアップの問題、戦略法をきちんと立てなければならない。今回のように比較的高齢で心筋梗塞をおこしたことがあるケースはリスクを考えどのようなオペが適切かをあれこれ検討しなければならない。たとえば従来の開腹術で行うべきか?それとも内視鏡か?胆石のオペが先か大腸が先か?同じ日にするか別 の日がいいか?などなどオプションは様々である。残念ながらこのような問題を解決する方程式は存在しない。数式に代入してオートマチックに答えが出ることはない。医療現場では毎日数え切れない程のジャジメントを下さねばならない。答えはひとつではない。そのために医師間のカンファレンスが存在し患者さん本人および家族の方との話し合いが必要となる。

今回のケースでは胆嚢と大腸を同時に切除してほしいと希望したのは、意外にも患者さんのほうであった。我々外科医は今回生命に直接関わる事態となっているのは大量 出血をくり返す大腸のみであり、できればリスクを最小限にするために今回は胆嚢摘出は見送る方がいいと考えていた。しかし腹痛も時々きたしているとのことでなんとか今回手術するのであれば一気に解決してほしいとの本人の強い希望があった。

このように複数の臓器のオペをするときは本当に内視鏡の威力を感じる。新たな切開を加えなくてもカメラの方向を変えるだけで別 の臓器に容易にアプローチ可能となる。胆嚢とS状結腸、この腹腔内で対角線上にある遠く離れた臓器を開腹術で行うとすれば、とんでもない大きな切開を要する・・・そうなれば術後のキズの痛みも大きく開腹は遅れ肺炎等の合併症も増えるであろう。本当にいい時代になったものだとつくづく思う。

(2002年)

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