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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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deroofing liver cyst

MISSION

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今今回諸君に課せられたミッションはこうだ・・
60代の女性である。上腹部の圧迫感があり検査を下結果肝左葉に巨大な嚢胞があり胃を圧迫していることがわかった。このケースに腹部を切開せずに副腎摘出を行ってもらいたい・・わかっているとは思うが何が起ころうとも当局は一切関知しないので・・・それでは成功を祈る

STRATEGY

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liver cyst ctCTスキャン。右の副))腎に腫瘍が見つかった(赤矢先の丸いところ)(赤矢印の60代女性の肝嚢胞のケースである。今回の戦略としては、この”巨大水風船”をつぶせばいいことになる。

局所麻酔下に針を刺して肝臓内にたまった”水”を抜くだけだと多くの場合再発することになる。再発をしないように水を産生するところを薬剤で”焼いてしまう”という方法もある。しかし確実な効果はない。お腹を大きく開ける”開腹”は論外だろう。となればやはり腹腔鏡下に”確実に”処理をするべきであろう。

DOCUMENT

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liver cyst腹腔鏡でみた肝臓。奥の丸いのが肝嚢胞、手前が胃2004年7月開業医のドクターより、60代女性の患者さんが紹介された。以前より検診の超音波検査(エコー)で肝臓の中に液体のたまる肝嚢胞というものがあることがわかっていた。年々大きくなり、今回はとうとう最大10cmまで成長してしまっているという。胃の圧迫感があり、食欲も低下しているということであった。胃カメラをしたところ胃の壁が外から大きく圧迫されていたが胃潰瘍やその他胃の病変はみつからなかった。腹部エコーでも腹部CTでもやはり巨大な肝嚢胞以外、この症状を説明できる病気はないと判断された。そして、この嚢胞をなんとか治療して欲しいとのことでのご紹介であった。

治療方法をどうするかである。無症状であれば何もしないというのも選択肢のひとつである。しかし、今回は症状が出現しているので何らかの治療をせざるを得ない、しかも、紹介先のドクターから嚢胞の中に突出した腫瘍のようなものが見えるので気になる・・とのコメントがあった。やはり、腫瘍性のものも鑑別しなければならないので注射器で液を抜くだけでは不十分だと考えられた。しっかりみる必要がある。

最終的には腹腔鏡で観察して嚢胞の天井を完全にオープンにする”開窓術(かいそうじゅつ)”を行うことにした。

liver cyst肝嚢胞の壁の一部を超音波凝固装置で切除しているところ全身麻酔がかかり、腹腔鏡を挿入した。するとCTやエコーで確認された巨大な肝嚢胞(かんのうほう)がすぐに確認された。かなり嚢胞の壁は薄く中の液体が透けて見えるようだ。確かに胃を圧迫しているようであるが思った程ではない・・・でもよく考えると気腹をしているので腹壁が前方に持ち上がっているので気腹をやめて腹壁が下がってくると肝臓が下に下がりかなり胃を圧迫することが予想された。
それはともかく、手術を進めることにした。処置をするための5mmポートは3本必要と考えられた。まず始めに嚢胞内の液体を抜くことから行った。腹腔鏡のモニターを見ながら特別な針で嚢胞を刺し、中の液体を吸引した。予想通り無色透明な液体が引けた。念のため悪性の細胞がいないか、寄生虫や細菌がいないかなどの検査を行ったがいずれも問題なかった。可能なかぎり液体を抜き取ったあと嚢胞の”天井”を開ける作業に移った。内視鏡手術では必須の超音波手術装置;ハーモニックスカルペルでどんどん嚢胞の天井を切り取っていく・・・もちろん出血は全くない。ただ、肝臓の実質がたくさん残っているところは出血はともかく胆汁という液体が漏れるとこれはとてもやっかいなことになるので無理はしないようにした。調子に乗って切りすぎると行けない。そして手術はあっという間に終了した。

術後経過は良好で傷の痛みも軽微であった。手術の翌日から普通に食事も摂ってほぼ普通の生活が可能であった。術前に感じていた圧迫感は消失しているという数日後患者さんは退院、現在も時々外来に来られるが再発の兆候は全くない。

COMMENT

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operation soo手術中の外の様子人のからだの中、とくに臓器の中には時々風船のような空間が出来てそこに液体がたまることがある。これを”嚢胞(のうほう)”と呼んでいる。嚢胞はいろいろな臓器にできるが多くは実の詰まった実質臓器、肝臓や、腎臓、脾臓(ひぞう)、膵臓(すいぞう)、甲状腺(こうじょうせん)、卵巣、乳腺にできることが多い。時には身の詰まっていない消化管などの管腔臓器に出来ることもある。以前のミッションでもあったように食道にも出来ることがある。また、肺にも嚢胞は出来るが形態は球状でほぼ同じだが内容物が気体であることが普通だ。

嚢胞はほとんどが無症状なのでエコーやCTなどの検査をして偶然みつかることが多い。頻度も比較的多い。しかも、ほとんどが健康を害することがない”良性”のものであるので治療の必要があるのはむしろ希である。婦人科の卵巣嚢腫は時に悪性疾患があったり、良性であっても捻転を起こして手術を必要とする頻度は高いと思われる。膵臓の嚢胞も膵炎などに関連したもので腹部症状が強いものは治療を要する。また膵臓の嚢胞は時に悪性疾患の場合があるのでやはり切除せざるを得ない場合がある(細菌はPETの登場で以前よりは手術の頻度が減ったかもしれない)

port site腹部には小さな切開をおいて3本のトロカールを挿入する。さて、今回のミッションは肝臓の嚢胞、肝嚢胞である。直径は10cmと比較的大きい。しかし、大きいというだけでは普通手術とはならない。手術をするだけの理由が必要だ。外科にとってこの”手術適応”というのは手術そのものと同等かそれ以上に大切だ。今回は癌などのように近い将来生命を脅かすような疾患ではない。また肝嚢胞が自然に破裂してしまったという報告もあまり無い。検査でたまたま見つかったからといってすぐに手術という訳にはいかない。今回は以前から確認されていた小さな嚢胞が徐々に大きくなってきているということ、嚢胞の中に腫瘍を疑わせる部位が指摘されていること、そして上腹部を圧迫する症状があるということが治療を必要とする根拠だ。

さて、治療をどうするかである。中にたまった液体による圧迫が問題であるのでそれを吸い取ってなくせばいいことになる。最も簡単で患者さんの体に優しいのはその方法であるだろう。しかし、多くの場合再発するので一時しのぎでしかない。再発の確率が低くしかも体に対するストレスの低いのはやはり腹腔鏡下の手術であると考えられる。
今回は嚢胞壁の天井を完全に丸く切り取ってしまう方法"unroofing"をした。腹腔鏡手術の中では高い技術レベルは要求されないが、リスクはゼロではないので適応の決定やオペそのものは慎重でなければならない。

今回もやはり腹腔鏡手術の確実性と低侵襲性というバランスの良さを再確認することとなった。
(2004年7月)

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