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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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finding needle

MISSION

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strategy
今回諸君に課せられたミッションはこうだ。十二指腸潰瘍穿孔で緊急手術を行った。ところが縫合に使う針が術中に飛んでしまい見失ってしまった。どうにかこれを探し出し、そして回収してもらいたい。・・わかっているとは思うが何が起ころうとも当局は一切関知しないので・・・それでは成功を祈る

STRATEGY

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free air ctCTスキャンではおなかの空間に多量のガスの漏れが確認され消化管の穿孔が疑われる(赤矢)今今回は40才代男性の十二指腸潰瘍穿孔による腹膜炎のケースである。深夜の緊急手術で腹腔鏡下に最小限の傷で十二指腸穿孔部の閉鎖は終了した。しかし、その途中で縫合に使う26mmの金属の針が突然どこかに飛んで消えていってしまった。これを探し出して、体外へ摘出する必要がある。

腹腔鏡下に直接見つかればいいが、そうでなければレントゲンをとってその2次元的な位置を把握しそして腹腔鏡でその部分を探す。見つかれば適切に把持し体外へ取り出す。

言うは優しいが実際は大変な困難性が予想される。詳細は下記のDOCUMENTを参照あれ

DOCUMENT

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DU perforation腹腔鏡で観察すると十二指腸に小さな穴が開いているのが確認された(青矢)2006年も暮れにさしかかったころER( 救急室)に激しい腹痛を訴える40代の男性が受診した。診察した内科のドクターが消化管穿孔による汎発性腹膜炎の可能性が高いと診断し、例によって小生がコールされた。たしかに腹痛は著明で、おなかも岩のように固くなっている。心持ち上腹部で著明である。腹部CTをみると肝臓や十二指腸、胆嚢周囲にガスが漏れているのが確認された。消化管穿孔はまず、間違いないだろう。症状、腹部の所見、CTなどから十二指腸潰瘍穿孔が最も疑われる。まだ、腹水は貯まっていないが腹腔鏡下に検索したほうがいいと判断した。

スタッフを招集しオペの準備ができたときはすでに時計は24時にさしかかろうとしてた。型どおり1cmの切開を腹部において腹腔鏡を挿入してお腹の中の空間(腹腔)を観察した。肝臓や胆嚢の近くには乳白色に混濁した腹水が貯溜していた。すでに十二指腸には大網という脂肪の網で覆われていた。それを優しく剥がしてみるとやはり小さな穴が開いているた。そこから十二指腸液やガスが漏れてくるのも確認できた。通常よりも縫いづらい角度の部位であったが型どおり腹腔鏡下にその穴を縫い合わせて事なきを得てオペは終了というはずだった。

3針目を縫って糸と針をトロカールという直径12mmの筒から体外へ取り出そうとしたところである。何closure duodenum腹腔鏡下に十二指腸に空いた穴を縫って閉じているところかに針が引っかかった感覚を感じた直後にパチンという衝撃が手に伝わり、そして急に抵抗が消失した。・・・針が飛んだか・・たしかに体外に引き出した糸には針は付いていない。・・・針が腹腔内に落ちてしまった。しかも、針を体外へ取り出す瞬間はカメラで捕らえていなかったのでどの方向に行ったかを予測することも困難であった。・・まずは気を静めてどうするかを考えた。コンタクトレンズを落としてしまったときのようにむやみに動いてはいけない。静かに静かに探すしかない。あっちこっちを引っかき回すとますます見つからない事になってしまう。すべての手術操作をいったん打ち切って針を探す事にした。トロカールの中にもない。トロカールの下のおなかの中にもそれらしいものは落ちていない。お腹の壁にも付いていない。できるだけお腹の中の臓器をさわらないでそのままの状態にして見ることだけに徹した。考えられる所はすべて見た。・・・・しかし、銀白色に輝いているはずの26mmの金属製の針はどこにも見つからなかった。でもたしかに体外へは出ていない。ということは絶対にお腹の中にあるはずだ・・・。金属なのでレントゲンで写るはずなのでオペ中にレントゲン撮影をした。しかし、どこをみても針らしき小さな物体は写っていない。ありえん・・・・まてよ。レントゲンがお腹のかなり上の方は写っていない。まさかと思うが今度はもっと上を狙って撮ってみよう。2回目のレントゲン、そこにはやっとターゲットが捕らえられていた。横隔膜と肝臓の間にあるらしい。再度腹腔鏡で確認してみる。やはりどうしても見つからない。肝臓の裏側に入っていってしまってるのか。そこは肝臓の”地平線”の向こうで腹腔鏡では見えない。鉗子で肝臓を押さえつけてどうにか見ようとしたが見えない

Xray abdomen手術中に撮った2回目の腹部レントゲン。肝臓と横隔膜との間に針と思われるものが写っている(赤矢)さあ、どうする。開腹するととても大きな切開になる。こんな小さな針を取るだけのために大きく腹部を切開するのか・・。胆道鏡という小さな屈曲するカメラをそこまで進めて見つけ出してから捕らえるか・・・でも胆道鏡は短いから届くかな・・とかなんとか思案していたときにある方法がひらめいた。マグネット、つまり磁石だ。針が磁性体かどうか分からないが鉄やニッケルなどの磁性の強い物質でできていたらマグネットで捕らえられるはず。でも銅やアルミのように磁石に着かないものなら諦めるしかない。ところで磁石って内視鏡手術でそんな都合のいい道具ってあったっけ・・・・。

心配する事なかれ。病院の救急室(ER)にはいい道具がある。小児がボタン電池や待ち針を飲んでしまったときにそれをくっつけて取り出す特別なチューブがある。細長いビニール(プラスチック)のチューブの先端に直径数ミリの小さな強い磁石がついたものがある。それが使えるかもしれない。早速、看護師さんにお願いしてER でそれを取ってきてもらった。同じ針を試しにそのマグネットへつけてみる。やった、ちゃんとくっつくぞ。

早速直径5mmのトロカールからそのチューブを肝臓の地平線の向こうにそーっと入れて当たりをみる。”お願いだから着いてくれ”と祈る。何度かはずれクジを引いたあと、何らかの弱い感触が伝わってきた。はやる気持ちを抑えてゆっくりとチューブをたぐり寄せる。そこには小さな銀白色のターゲットがしっかりとられられていた。静まりかえった未明の手術室にはいつの間にか5名のスタッフの拍手が鳴り響いていた.。

COMMENT

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catch needl長いビニールチューブの先端についたマグネットで針を捉えた劇的瞬間(青矢)オペに限らず、いろんな場面で予想外のトラブルは発生する。トラブルを未然に防ぐことはとても重要であるが、気をつけていてもやはり起こってしまう。今回は体外へ取り出す際の糸の持ち方や持つ位置、取り出すトロカールは適切だったと思うが、取り出す瞬間をカメラが捕らえていなかったことは反省すべきである。ただ、深夜の緊急手術でありカメラオペレータも昨日の勤務から休み無しの状況であったのでこれを問題にするわけにはいかない。
腹腔内に小さな針が落ちてしまうと本当に探すのに難渋する。草むらでコンタクトレンズを落としてしまったときに見つけるのに難渋するくらいかもしれない。腹部の空間は小腸や大腸、大網などの複雑な臓器の間に多くの間隙がありその中に針が入ると本当に探すのは困難と思われる。レントゲンではたしかに写るけれども、この辺にあるはずだって分かっていても見つからないこともあるからやっかいだ。それくらい小さな針を見つけるのは容易でない。

今回は何であんな所まで飛んでしまったのだろう。と言うくらい遠くまで針が飛んでいた。複雑な小腸や大網の間に入ってしまうよりはまだましかもしれないがよりによって肝臓と横隔膜の間の最も深いところ。頭が凍りつき思考停止にならないようにしアイディア練る。トラブルが起こったときにそれを修正する事がいわゆる底力。

finding needle肝臓の”地平線”の向こうには通常の方法ではアプローチできない・・・今回ラッキーだった点は針がマグネットに着く磁性体だったこと。そして、その道具があったこと。そしてそれがどこにあるかを知っていて良かった。

救急外来での経験が今回のオペではリカバリーショットを打てる要因となった。

患者さんの体にやさしい内視鏡手術。その裏側には僕ら医師だけでなく、いろいろな新しいテクノロジーを開発する工学系の技術者たちの功績が大きい。コンピュータで言えば内視鏡外科医はあくまでもソフトウェア、機材を開発する工科系の方たちはハードウェア。そのどちらか一方でも無くなればそれは全く意味の無いものになってしまう。MISSIONのテーマにもなっているInnovation(技術革新)とStrategy(戦略)はまさにそのことである。

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