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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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LADG90

MISSION

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strategy
今回諸君に課せられたミッションは以下の通 りである。乳ガンで乳腺を広範囲に切除する必要がある。ガンに侵された乳腺を広範囲に切除、リンパ節郭清をした後、乳房内の欠損した空間を何らかの組織で補填し術前とほぼ同じように乳房の形態を美しく保持せよ。当然のことであるが補填にシリコン等の人工物を使用してはならない。なにが起ころうとも当局は一切関知しない、それでは成功を祈る。

STRATEGY

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ope大網(だいもう)を採取中の手術の様子。腹腔鏡を用いておなかの中の大網を採取している。今回のミッションはガンの根治を目指すものではない。cosmesisつまり美容的な目的のオペである。乳ガンの女性はガンであるということと乳房を失ってしまうという2重の苦痛を強いられる・・乳房を形だけ残しても美しくなければ傷ついた心を癒すことはできない。そこで今回のミッションはわれわれの内視鏡外科手術のテクニックを駆使して乳房の再建に応用しようと同僚の乳腺専門外科医Dr.Zの提案によってプロジェクトが立ち上げられた。これまで生食注入法や広背筋弁補填等々試みるも満足な結果 は得られなかった。最終的な結論は胃がんの内視鏡手術を応用しようということになった。つまり腹腔内の大網という脂肪の網の組織を最小の傷で採取し乳腺を欠損した部位 に補填するというかなり高度な技術を要するものだ。もちろん腹部に目立つ傷を付けてはならないし腹部臓器を損傷してはならない。

DOCUMENT

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omentumこれが今回乳房再建に使用する大網という大きな網状の脂肪組織である。乳房の手術をする前に大網(だいもう)の採取をする方針とした。全身麻酔下に腹部に10mmの切開を1カ所、5mmの切開を3カ所おいた。胃がんの手術のときのテクニックで大腸と胃から大網をはずしていった。使用する器具はもちろん超音波凝固切開装置すなわちハーモニックスカルペルである。血管の結紮は全く不要である。胃や大腸を優しく把持できる特殊な鉗子も必須である。内視鏡外科医のこの手術における最大のストレスはミスは絶対に許されないということである。つまり胃や大腸ガンの手術ではないのでこれらの臓器の損傷や出血がコントロールできなくなったときに開腹手術へコンバートするということが基本的には許されないオペである。胃がんや大腸ガンに比較して格段に緊張のレベルが高くなる。しかも乳房の再建に使用する大網を大事に取り扱わなければならない。大網を栄養する血管を損傷してしまっては元も子もない・・手術は術前の幾たびにもわたるシミュレーション通 りに遂行され大網はめでたく血管付きで採取された。Dr.Zの考案した方法で乳房の欠損部位 まで大網は誘導された。乳頭、乳房皮膚を温存した乳腺全摘の後にできたスペースにあらかじめ採取した大網を誘導し乳房を形成した。Dr.Zの手により満足のいく形になるまで何度も大網の固定を繰り返し て形成した。大網を採取する時間は1時間あまりであったが乳房切除、再建を含めると5時間くらいかかった。

omentum2乳ガンを含む乳腺を切除した左乳房に腹部の大網を誘導したところである。これで乳房の形を形成するこのプロジェクトを立ち上げて1年になりこの間、患者さんの希望で11例遂行した。幸いすべてにおいて手術は成功した。術後乳房は一時的に発赤し硬くなるが数ヶ月もすると驚くほど軟らかくなることがわかった。背中の筋肉を使用する方法に比較して完成度は高いという印象をもっている。腹部の傷はほとんど消失しこれに対してはこれまで問題となっていない。


COMMENT

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scar再建し半年経過した乳房はほとんど変形せず美しい形態を保持している。内側と腋には手術瘢痕があるが腹部の数mmの傷ほとんど目立たない。乳ガンの手術といえばわれわれが研修医の頃は乳房を完全に切除してしまうのが当たり前だった。その頃から世界的に乳房温存療法+放射線が普及し出した。乳房を1/4切除したりガンを含んだ乳腺を広範囲に切除、その後放射線照射を追加するというものである。乳房を部分的に残したものの放射線治療後の乳房の変形や硬化がおこりせっかく残しても本当の意味での患者さんの満足度は高いとはいえなかった可能性がある。現在乳ガン手術後に乳房を再建するのはほとんどが形成外科に委ねられている。腹部や背部の皮膚や筋肉を用いて再建するのである。われわれ外科医ではとうてい真似のできないかなり高度な技術である。完全に乳房を切除してしまった場合はこの方法でしか再建できない。今回このミッションで行われた大網を使用する方法では完全に失われた乳房を作ることはできない。この手法が適応可能なケースは乳房の皮膚の大部分を残すことができるものに限定される。メリットとしては体の筋肉や皮膚を使用しないということと乳房以外の部位 の傷が最小であるということである。再建した乳房は萎縮することもなく数ヶ月経過すれば軟らかくなる。適応を選択すれば非常にいい再建法であるという印象を持っている。この内視鏡外科の技術を応用した乳房再建の新しい手法は同僚のDr.Zのアイディアで生まれた。過去の外国の論文でも同様の報告があるが彼らの手法は腹部に5cm程度の切開創を必要としているが今回は完全に内視鏡下に施行するため腹部の傷はほとんど無いに等しい。彼がこの手術手技をすでに学術雑誌に投稿済みでありアクセプトされている。実際の技術については2003年6月札幌で行われる日本外科学会のビデオセッションで報告を予定している。

(2002年)

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