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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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MISSION

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今回諸君に課せられたミッションはこうだ・・
18才の女性が激しい腹痛で救急室を受診した。諸検査で胃の前に5cm程度の球状の腫瘤が見つかった。希なケースであり診断はついていない。このケースで傷が目立たないように最小限の痛みで腫瘤を摘出してもらいたい・・・わかっているとは思うが何が起ころうとも当局は一切関知しないので・・・、それでは成功を祈る

STRATEGY

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ct1術前のCTスキャン。胃と肝臓の間に異常なしこりを認める今回は18才の女性の胃の前にできた5cmのしこりをどうするかが問題だ。そのまま経過をみていいものなのか、切除しなければならないものなのか・・その判断がむずかしい。最終的にはイマドキの18才の女の子とは思えない強い意志を持った本人の希望で手術を選択した。
今回のオペの最大の目的は診断をつけることと同時に治療を行うことである。若い女の子のおなかにメスを入れねばならないのはつらいが、とにかく最小限の切開で成功させるようにする。腹腔鏡で観察しハーモニックスカルペルで切除することにした。最低限5mmのポートは2カ所、できれば3カ所ほしいところだ。決して開腹手術にコンバートさせてはならない 。

DOCUMENT

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omental infarction腹腔鏡でおなかの中を見たところ。胃の前の丸い腫瘤は大きくおなかの壁に激しく癒着していた。ER(イーアール,Emergency Room)を18才の女性が激しい腹痛のために受診した。初回担当したドクターは診察やレントゲンの結果 便秘による間欠的な腹痛と判断し内服薬を処方し帰宅させた。翌日になっても腹痛は持続し再受診、担当した別 のドクターは腹部CT、エコーをオーダーした。その結果、胃の前面に5cmの球状のしこりが見つかった。腹痛は腹部全体におよびそのしこりの部位 だけではなかった。

そのころ高速道路を自宅に向けて走らせていたIANMINEのケイタイが鳴り響く。病院からの表示になっている。走行中の通 話は法律で禁じられているとはいえ出ないわけにはいかない・・ERからの呼び出しであった。近くのインターでUターンし病院に引き返した。別 の件でのコールであったが通りがかすがりにこの子のことで内科の救急担当から相談を受けた。緊急オペの対象になる感じはしないが入院のうえ経過をみて検査を進める必要がありそうだとコメントした。

入院後胃カメラや超音波内視鏡、エコー等を施行した。確かに胃を圧迫するようなしこりがあることは間違いない。しかも痛みが消えない。おなかの上からさわれる程大きくなってきている。10日間まったが縮小傾向にない。退院してから様子をみるか、診断を確定するために切除するか・・悩んだ。本人、母親、父親に現在の状況について説明した。結局本人は手術を希望し、両親も同じ考えであった・・やるしかない

resected nodule腫瘤を切除した直後。中央やや上の丸いのが今回切除した腫瘤。下は胃です。手術は全身麻酔下に行われた。臍下に1cmの切開をおいて腹腔鏡用のポートを挿入した。炭酸ガスを送り腹腔内にワーキングスペースを確保する。腹腔鏡を挿入し、腹腔内を観察すると胃の前面 がおなかの壁に激しく癒着していた。これは簡単にはいかないと思った。3本の5mmポートを挿入することを決断した。2本の把持鉗子で視野を展開しハーモニックスカルペルで切離していく。最初しこりと胃の壁、その他の組織との境がほとんどわからなかったが少しずつ剥離を進めていくにしたがい認識できるようになってきた。とにかく出血させないように、胃を傷つけないように、不意に胆管等の重要臓器を損傷しないように等々、細心の注意を払いながら進めていった。結果 、無事に切除に成功した。専用のプラスチックのバッグに球状のしこりを入れて臍の下から体外に取り出した・・これもかなり難渋したが・・ 。

手術後の経過は良好で傷の痛みは軽微であった。顕微鏡検査の結果 小網という胃の周りの脂肪組織の梗塞ということであった。非常に珍しいケースである。何はともあれ悪性の病気でないことがわかりほっとした。傷は少し残ったが痛みも消えて診断もついて本人・ご両親とも安心されたようであった。




COMMENT

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operative scar術後10日目の腹部の傷の様子腹痛はERを受診する患者さんでもっとも多い症状のひとつである。腹痛をきたす救急疾患は数え切れないくらいある。このなかから短時間に正確に答えを出すには、正確な知識と経験、直感、そしてその患者さんからできるだけ早くその痛みから開放してあげたいという情熱が必要である。緊急で手術を必要とする腹痛を主体とする疾患を概して急性腹症(きゅうせいふくしょう)と呼ぶが、外科医はいやというほど多くの急性腹症を経験することになる。多いのはご存じ虫垂炎(もーちょー)、であるがその他、憩室炎、腸管壊死、腸閉塞、潰瘍穿孔、膵炎、胆石症、尿管結石、ヘルニア嵌頓、腸軸捻転、卵巣捻転、動脈瘤、PID,云々、たくさんの疾患を鑑別 できる能力が必要だ。急性腹症ほど外科医としての力量を問われるものはないと僕は考えている。詳細な問診、正確な理学所見、血液検査、画像診断(レントゲン、エコー、CT)の読み、安眠妨害されたことに腹を立てない心の広さ、シャーロックホームズに負けない推理力、等々。たいてい休日や夜間に発生するので1人で判断せねばならない。腹を開けるか、待つかを決定するJudgementが必要である。いつでも感情と理性のバランスを崩すことのないようにしなければ判断の誤りを招くことになりかねない。

一般 論はさておき、今回のケースは僕の頭の中の引き出しの中にある疾患ではないと思われた。最も怪しいと思ったのは”アニサキス症”といってサバやイカなどの刺身に入っていたアニサキスという寄生虫が胃の中にもぐり込んで激しい腹痛と胃にアレルギー反応を起こさせて胃の腫瘍のようなしこりを起こさせるものである。ERを受診する2日前に居酒屋からのおみやげの寿司を食べたとはいうが、どうもそれらしくもなかった。もし寄生虫によるものなら胃カメラで胃粘膜下腫瘍にみえる膨らみが時間とともに消失する可能性が高い。1週間後胃カメラを再検したが全く変化はなかった。若い女性の腹痛をきたす胃の粘膜下腫瘍様腫瘤性病変・・なんだろう???
このケースは最終的に腹腔鏡下に切除を行うことができた。ピンポンの形をした比較的硬いしこりであったが、病理の結果 は胃を肝臓に釣り上げている脂肪と血管でできた網状の組織である”小網(しょうもう)”の梗塞(こうそく)であると結論であった。梗塞とは心筋梗塞や脳梗塞が有名であるが組織に血液が行かなくなっておこるものである。小網になぜ梗塞が起こるのか??答えが出た後、謎はますます深まった。同様の報告がないか医学論文を検索中であるがまだ見つかっていない。

今回のケースでもやはり内視鏡手術が活躍した。もしこの子のおなかを大きく開ける開腹手術をしていたと想像するとつらいものがある。醜いきずがおなかのまん中に一生残っただろう。本当にいい時代になったものだと今回も内視鏡外科学の進歩に感謝した。
(2003年)

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