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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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MISSION

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今回諸君に課せられたミッションはこうだ・・
65才の男性の大動脈に接して大きな腫瘤が見つかった。リンパ節と思われるが異常な大きさだ。このケースで最小限の傷の大きさと痛みで腫瘤を摘出してもらいたい・・・おっといけない、実はこのケースは馬蹄腎なのでそこのところもよろしく・・わかっているとは思うが何が起ころうとも当局は一切関知しないので・・・、それでは成功を祈る

STRATEGY

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ct1CTスキャン。腎臓と大動脈と十二指腸の間に4cmの腫瘤あり(赤矢頭先)今回は65才の男性の大動脈の近くに発見された腫瘤、おそらく腫大したリンパ節の切除がテーマである。ちょうど左腎門部付近で大動脈の左、膵や十二指腸の背側、椎体の前面 とかなりきびしいロケーションである 。生検目的なのでCTガイド下針生検が最も体には低侵襲であると思われるが可能なら切除してもらいたいとの依頼である。それならあの方法しかない・・そう”後腹膜アプローチ”である。これまでのミッションでも何度か登場しているのでおわかりかとは思うがけっこうむずかしい方法である。今回もこりもせずに後腹膜アプローチでの切除をめざす。しかし馬蹄腎が手術にどんな影響を及ぼすかは未知数である。

DOCUMENT

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kidney中央のソーセージのように見えるのが腎臓。馬蹄腎といって特別な形をしています。8月の上旬、外科病棟で電子カルテの入力をしていたところ、背後から気配を感じた。”ススムー”と呼ぶ声に振り返ると大学を同期卒の泌尿器科のDr.Nであった。泌尿器科に通 院中の患者さんで腹部エコーで腎腫瘍が疑われるとのことでCTを撮ったところ腎に腫瘍はなく大動脈の周囲に腫大したしこり、おそらくリンパ節と思われるものが見つかったという。腎癌の転移か?または後腹膜腫瘍か?悪性リンパ腫か?診断がつかないからには治療は開始できないという。これを内視鏡手術で切除してもらえないか、という。この部位 は本来泌尿器科の守備範囲ではあるが内視鏡手術に慣れてないとのことで同級生でもある私に声をかけたとのこと。しかしそんなに頻繁に後腹膜腔に入るオペをやっているわけではないのでその場で即答はできなかった・・しかも馬蹄腎なんて見たこともないし・・後日結局オペ決断せざるを得なかった。

全身麻酔下、開腹の腎臓摘出のような体位 で手術を行った。あの後腹膜の達人山田先生に教えていただいた位置に1cmの皮膚切開をおいて外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋をスプリットし腹膜前腔に至った。人差し指である程度剥離を行った後、いつものPDBを挿入しバルーンを膨らませて後腹膜腔をオートマチックに剥離する。抜去後BTTを挿入し、後腹膜腔を8mmHg圧の炭酸ガスで気嚢した。ワーキングポートは5mmを2本挿入した。。

剥離鉗子とcherry dissectorで鈍的に剥離を行っていく。 レイヤーを間違わなければ出血はほとんどない。 やがて初めてみる馬蹄腎に遭遇した。とにかくリンパ節を探す前に腎周囲を十分剥離しなくてはならない・・
lymphnode切除すべきリンパ節に達したところ(緑の矢頭先の球状のもの)不意の出血が視野を遮断しオペの進行を阻害する。そのため内視鏡手術、特に後腹膜手術においては特に出血をさせないような手術が必要だ。開腹手術のように止血は容易ではない。とにかく丁寧に確実に目の前の敵を倒すことだけに専念し、決してゴールを急がないことだ。
左手の鉗子で視野を確保し右手の剥離鉗子一本で剥離していく。後腹膜手術の達人、山田英夫先生になりきったつもりで剥離を続ける。幸い出血はほとんどなく大動脈とその前に鎮座する大きなリンパ節が見つかった。丁寧にリンパ節周囲の結合織を剥離し、リンパ節の摘出を目指す。内視鏡は肉眼に比べてかなり細かいところまで確認可能であり細いリンパ管や血管が大きく見える。リンパ節を完全に切除することを目標としたが腰動脈、静脈の枝と思われる血管がリンパ節をまたいでいる・・・剥離しなんとか血管をよけてリンパ節だけを切除するようにしたが断念、リンパ節の一部をとって最低限の仕事である診断をつける、つまり病理に標本を提出することに目標を下げた。リンパ節の半分を切除し止血をして手術を終了した。

手術後の経過は良好で傷の痛みは軽微であり2日後に退院した。顕微鏡検査の結果 悪性リンパ腫の診断がついた。血液の専門医で今後化学療法を行う予定である。




COMMENT

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port site手術中の様子。1cmのカメラポート1本と5mmのワーキングポートを2本挿入した。傷はこの3箇所である。大動脈周囲リンパ節の切除・・・治療の場合と診断を確定する場合に分かれる。大腸癌や胃癌、肝臓癌、膵臓癌などの腹部のガンでは大動脈の周囲にリンパ節転移があればすでに手術では治癒は望めないとされている。そのため外科医が大動脈衆院のリンパ節を切除する機会は多くはない。しかし泌尿器科領域や婦人科領域のガンでは大動脈周囲リンパ節の切除をしたり原発巣を確定するために一部をとってくるのはけっこう有効とされているらしい・・。

さて今回は泌尿器科のドクターに依頼された大動脈の前面 に位置する異常に大きくなったリンパ節のサンプリングである。腎癌の転移なのか、悪性リンパ腫なのか、その他の後腹膜腫瘍なのか、それとも悪性ではない反応性のリンパ節腫大なのか?診断をつけなければ治療方針もたたない。
診断をつけるのに最も有効なのは組織の一部を取ってくること、つまり切除することた。これを特殊な処理をして顕微鏡で観察し、その形態からその組織の振る舞いを判断する、それが病理学である。診断においては最も信頼性が高いとされている。今回もCTやMRIといった検査では診断は確定できなかったが病理学的検索で”悪性リンパ腫”という診断がついて今後の治療方針がついた。

しかし今回のケースはけっこうしんどかった。大きくなったリンパ節の存在する場所が問題だった。腎門部といって腎臓に血管が出入りする部位 のちかくである。この場所は 血管が豊富で出血しやすい・・・。細い静脈を1本不意に引き抜いただけて驚くほど出血する、止血も困難である。以前腎臓を開腹で摘出したときにちょっとした隙に腎静脈から大量 の出血をきたし止血に難渋した苦い経験をした・・こっちの意識も遠のいていくようだった。そのトラウマがまだ残っている。腹部のなかで最も深い部位 でct2このケースでは腎の下極付近が左右癒合していた。いわゆる馬蹄腎(ばていじん)であった。危険な臓器が周囲にひしめいている。そこに攻め入ろうというのだ。しかも、正常の腎臓ではない。先天的に左右の腎臓がU字型に癒合した、いわゆる”馬蹄腎(ばていじん)”である。これが今回のオペにどのように影響を与えるのかは未知数であった。逃げ出したい気持ちはあった。なんとか言い訳をしてこのオペから逃れたいとも思った。CTガイド下に針で生検をするだけ でいいのでは・・・などと思った。しかし、一方では内視鏡手術の最も得意とする部位 であることも事実だ。成功すれば開腹術には比較にならないほどの小さな傷でとても小さな痛みで手術が可能で患者さんの受ける恩恵は大きい。結局泌尿器科の主治医と最終的な戦略は内視鏡手術で進めて、いつでも開腹手術に移行できるようにして手術をすることだった。

オペが始まると弱気な自分はいなくなり、いつの間にか内視鏡外科医に変身していた。恐怖心は消えてただひたすらひとつひとつの操作を確実にこなす。そしてオペは1時間半程度で終了した。 。

今回のケースでもやはり内視鏡手術が活躍した。体の奥に到達するのにたった2cm(従来の1/10)の切開で同等以上のオペが可能であった。またもや内視鏡外科学の進歩に感謝した。

(2003年8月)

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