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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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MISSION

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今回諸君に課せられたミッションはこうだ。タール便と腹痛を訴えてきた70代女性に見つかった胃粘膜下腫瘍だ。4cm程度の粘膜下腫瘍で悪性も否定できない。これをおなかを大きく切開することなく切除してもらいたい。しかも胃の入り口である噴門の機能も完全に温存することが必要だ・・わかっているとは思うが何が起ころうとも当局は一切関知しないので・・・それでは成功を祈る

STRATEGY

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70歳代の 女性である。胃粘膜下腫瘍はこともあろうことに一番やっかいな部位に出来ている。食道と胃のつなぎ目である噴門直下でしかも小弯、後壁だ。開腹手術では噴門側胃切除しかできないだろう。腹腔鏡でやるにしても胃の裏側で最も深いところでアプローチが困難である。やはり胃の中から行くしかない。そして切除の方法も自動縫合器でオートマチックというわけにはいかない。すべてが手作業になる。胃内手術では操作の制限が避けられないので胃の前壁を切開して戦場にたどり着くことにする。操作は困難を極めることが予想される。最後まで集中を切らさないようにする必要がある。

DOCUMENT

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ugiバリウムでの胃透視かかりつけの病院で胃カメラをして胃粘膜下腫瘍が見つかりなんとか内視鏡手術で切除出来ないかということで紹介していただいた。紹介状に添付された胃カメラの写真をみて唖然とした。「またか・・・」と心のなかでふとつぶやいた。いったいどうしてこうも胃粘膜下腫瘍はこんなやっかいな場所によくできるんだろう、とつくづく思う。これまでも何度も同じようなケースを目にした。そのたびに四谷メディカルキューブの金平先生へ何度も紹介して手術をしてもらった。全国から直接小生へメールで問い合わせがあったりしたときも金平先生を紹介していたくらいだ。今回はどうしても小生の病院でオペを受けたいとの希望であった。
 なにをなすべきかは簡単だ。腫瘍を残さずに取ってしまえばいい。たた、食道と胃の接合部である噴門の機能は残さなければ意味がない。切除するストラテジーを考えた場合、もっとも理想的なのは「胃内手術」である。ただし、胃内手術はここでは語り尽くせないfgs胃の入り口近くの粘膜下腫瘍くらいハードルが高い。今回は胃の前壁を切開して観音開きにして腹腔鏡下に直接腫瘍を切除することにした 。
 全身麻酔がかかりいつものように1cmの皮膚切開をおいて12mmXCELをおなかの中に挿入した。8mmHgの圧の炭酸ガスが本来仮想的なおなかの中の空間を実際のスペースへと変化させる。本来真っ暗なはずのおなかの中の空間にはキセノンランプで明るく照らす。リレーレンズが組み込まれたテレスコープを経由してフルハイビジョン3チップCCDからのデジタル信号は直接16:9のアスペクト比のモニターへと送られた。肉眼より遙かに精細におなかの中が映し出された。必要な部位に必要な数だけトロッカーを入れて準備は整った。
 病変は胃の最も深いところに位置するため胃の上部の胃を切り開く必要がある。そこでその部位に胃壁をつり上げておくために何本かの糸(支持糸)をつけておいた。支持糸に緊張をかけて超音波メスであるハーモニックエースで一気に胃壁に切開をおいた。エースlcs超音波メスで腫瘍を切り取るで切開した胃壁からは出血は全くなかった。あらかじめかけておいた支持糸を上手くコントロールしてターゲットが見えるようにした。ターゲットをロックオン完了後病巣の切除へと移った。
 腫瘍を切除する原則は当然であるが絶対に腫瘍組織を細胞レベルでも残さないことだ。そのためにはできるだけ腫瘍から離れて切離ラインを設定したほうがいい。しかし、あまり離れすぎると無駄な切離のために胃の機能は低下する。今回は食道とのつなぎ目である噴門が近いのでその機能を残す必要がある。把持鉗子で腫瘍から1cm離れた部位を把持しハーモニックエースのブレードを胃の壁に当てた。そして躊躇することなくフットスイッチのペダルを踏みブレードに55.5kHz の超音波エネルギーを注ぎ込む。それと同時に胃壁は出血もほとんど無く少量のミストをはき出しながら切開されていく。とにかく腫瘍を傷つけないようにそして胃の周りの臓器や神経、血管を傷つけないように集中しながら腫瘍の周囲をハーモニックで切離していった。出血は全くなく逆にあっけにとられたほどだ。腫瘍の切除はあっという間に終了した。
suture胃壁欠損部を縫合するさて、本番はこれからだ。『♪♪行きはよいよい、帰りは怖い・・♪』というように取ってしまった後には胃の壁に2カ所の穴があいてしまう。腫瘍があった胃の後壁とその部位にアプローチするために切開してあけた胃の前壁だ。胃の後壁は自動縫合器で縫うのは困難であるのでせっせと針と糸で縫うしかない。長い距離ではあったが縫い続けた。後壁の吻合が終了して次に前壁の閉鎖に移った。さすがに周りのスタッフも疲れているだろうから一気に自動縫合器で閉鎖しようと思ったが、第一助手を務めたDr.Henzanが『せっかくだからここも手縫いで行きましょう』と言ってくれた。集中を切らさないように再度20cmの3-0バイクリルで胃壁の縫合を行っていった。もし、術後の縫合不全があればそれはすべてオペレータの責任である。一針一針丁寧に運針して完璧な縫合を心がけた。念のため術中に胃カメラを行って縫合に問題が無いことを確認した。
 術後の経過は良好であった。傷も小さいばかりか食事も術前と殆ど変わらない生活を送ることができた。3ヶ月後の胃カメラでは胃の2カ所の切開部は小さな傷としてなんとか確認できる程度であった。

COMMENT

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specimen切除した腫瘍”胃粘膜下腫瘍(いねんまくかしゅよう)”は胃カメラや胃透視が一般検診で行われるようになった結果たびたび見つかるようになった。胃がんとは違って粘膜から発生するわけではなくその下から発生する腫瘍で胃カメラではその本体を直接とらえることが出来ない。そのため、確定診断を得るための生検が困難である。つまり、腫瘍があることは分かっても、その性状までは確定困難である。そのため切除して初めてその腫瘍が悪性であるのか良性であるのかの判断が可能となる。
 近年、胃の粘膜下腫瘍の中でGIST(gastrointestinal storomal tumor),日本名、消化管間質性腫瘍という概念があり、この腫瘍は胃の上部に多いとされている。悪性度の高いものもあり注意が必要である。このような腫瘍はリンパ節転移は希であるので胃癌のようにリンパ節郭清は必要がないとされている。しかし、腫瘍が破裂して腹腔内へ散らばるとそこに腫瘍は増殖して再発するつまり、播種してしまうことになる。また、肝臓に転移することもある。
fgs術後の胃カメラ 今回の粘膜下腫瘍も術前の予想通り病理組織検査の結果GISTであった。手術では取り残しの無いように十分腫瘍から離れることも必要であるが、腫瘍を傷つけてその細胞をまき散らすことが無いようにすることも非常に重要である。
 今回のケースは胃の噴門直下にあったため一般的には悪性も考慮して開腹で噴門側胃切除術を行うことがこれまでの考えであると思われる。癌であったならリンパ節郭清を行う必要性があるためその術式が妥当であろうと思われる。しかし、十分なマージンを確保して腫瘍を播種させない技術があれば局所切除でも十分である。そうすれば、機能温存が可能となる。病気を治す力を落とすことなく、術後の毎日のことである食事を普通に摂ることができるということが可能となるのだ。
 では、どのような手術が望ましいのだろうか。この部位はかなり深い場所なので開腹でも結構難しい。腹腔鏡手術では胃のちょうど裏側になるので直接腫瘍を視野に捕らえることは容易でない。そこで、登場するのが、胃内手術、別名『経皮的胃手術』という手術である。利点は、腫瘍を正面にとらえることができて視野は非常に良好で、開腹手術は比較にならない。欠点は切除や縫合の操作が容易でなく技術的要求度が高いということである。胃内という狭い空間の中での作業は非常に窮屈で制限も多い。出血などの対応や電気メスや超音波メスの使用に伴って発生する煙やミストなどの影響も受けやすい。このオペには多くの経験と日々の鍛錬、そして何よりセンスが必要だ。
abdomen術後の小さなキ腹部のきずは殆ど目立たない 今回はこの胃内手術ではなく胃の前壁に切開をおいて腹腔内と胃の後壁を連続した空間へと変換して”腹腔鏡下”に腫瘍を切除した。欠点はやはり”なんの罪もない”正常な胃の前壁に切開をおかなければならないことと、胃内手術のように胃を空気によって膨らますことができないため視野的には胃内手術に劣ることである。また、前壁切開部を縫って閉鎖する操作が必須であることだ。利点は手術の場が腹腔内という大きなスペースであるため、必要な本数だけ、必要なポートをおけること、また、空間が広いことにより煙やミストの影響を受けにくいことだ。
 確かにこの方法では腫瘍を切除することはそれほど苦労しなかった。それは僕の技術ではなく、超音波凝固切開装置、つまりハーモニックスカルペルの力が大きい。あれだけ血流が豊富な胃壁を切っても全く出血しない。通常の高周波電気メスで切開すると確実に出血がおこり手術は立ち往生してしまうはずだ。切除はあっという間に終わり逆にあっけにとられたほどだ。
 しかし、欠損した胃壁の縫合はタフだった。両手の鉗子が殆ど平行に近い角度になり結紮・縫合の操作は容易でなかった。しかし、これまでの数々のミッションを乗り越えてきたおかげでこの山は越えることができた。一針一針丁寧な運針を心がけた。小生が愛用している鞄はポーターであるが、この吉田カバンの理念は”一針入魂”であるという。このオペでもまさに同じような気持ちで一針、一針に魂を込めた。幸い、術後は出血や縫合不全などの合併症もなくこの病気から解放することができた。自動縫合器全盛のこの時代においても内視鏡下の縫合の技術はやはり必要であると痛感した。

(2008年1月)

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