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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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giant cyst of spleen

MISSION

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今回諸君に課せられたミッションはこうだ・・
74才の女性の巨大脾嚢胞のケースである。左側副部痛が原因で来院。CTで脾臓に大きな嚢胞が見つかった。このケースで最小限の腹部切開で病変を摘出してもらいたい・・・わかっているとは思うが何が起ころうとも当局は一切関知しないので・・・、それでは成功を祈る

STRATEGY

STRATEGY

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ct1CTで見た嚢胞。最大10cmの嚢胞が脾臓に接して存在しており脾臓由来と思われた。今回は脾嚢穂(ひのうほう)、つまり脾臓に嚢胞という”液体の入った袋”が存在する疾患である。肝臓や腎臓、そして甲状腺の嚢胞であれば注射器で刺して内容物を吸引して もいいが脾臓の場合はそうはいかない。むやみに刺すと大出血をきたす可能性も高いし寄生虫その他の病原菌、または悪性細胞等をおなかの中にまき散らす可能性がある。前もって嚢胞の内容の性質が把握できればいいのだがなかなか困難な場合が多い。そこで今回はやはり腹腔鏡を用いて嚢胞を含む脾臓を切除する方針とした。

DOCUMENT

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spleen cyst手術中の様子。脾臓を切除した後、プラスチックバッグに脾臓を入れようとしているところ。結局大きすぎて入らなかった。最近左脇腹が痛むようになり食欲も低下しているので他の病院で人間ドックを受けた。その結果 、脾臓に巨大な嚢胞つまり液体の入った風船のような袋があることがわかった。実は数年前から指摘されているのであるがその時は直径わずか2cm程度であった。今回は最大径10cmにまで成長してしまっている。しかも痛みや食欲低下もきたしている。近いうちに破裂してしまうかもしれない。嚢胞の内容はどんな最新鋭の検査を行っても確定は困難である。嚢胞の液だけを抜いたり、嚢胞の壁の一部を切除し穴を開ければいいのでは、との意見もあったがもし内容物が悪性細胞を含むものであったり、生物学的に汚染をきたすものであった場合はかなりやっかいなことになるので脾臓も含めて全体を切除する方針となった。

手術は全身麻酔下に行われた。臍の左やや頭側に1cmの小さな切開をおいて腹腔鏡用のポートを挿入した。炭酸ガスで気腹を行い腹腔鏡を挿入して腹腔内を観察した。脾臓にはやはり巨大な嚢胞が存在した。手術を行うためのポートを3本追加した。2本は直径5mm、1本は12mmとした 。助手とのコンビネーション、手術台の傾きをコントロールし重力を利用した視野の展開のもと、脾臓と大腸、脾臓と胃、脾臓と腎臓、脾臓と横隔膜を結合する組織を丁寧にハーモニックスカルペル(超音波凝固切開装置)で切離していく。とにかく重要臓器を損傷しないように、不意の出血をきたさないように細心の注意を持続させることが必要になる。この手術は出血させないことが何より重要だ。 なんとか周囲組織との連結を絶つことに成功し手術はクライマックスを迎えた。脾臓に入る動脈・静脈を自動縫合器で切離し脾臓が切除され、緊張が和らいだ。最後は切除した嚢胞を含む脾臓specimen,spleen切除した脾臓と脾嚢胞。かなり大きい・・を体外に摘出するだけだ。しかし、これからが大変だった。あまりにも嚢胞が巨大で脾臓を収納する専用のプラスチックバッグに脾臓が入らない。いろいろな袋を試したが完全に収納できるものはなかった。結果 的に腹部の創を約5cmに広げて直接体外に取り出した。

手術後の経過は良好で傷の痛みは軽微であった。最終的な診断も悪性疾患ではなく原因不明の真性嚢胞であった。特に問題なく退院した。




COMMENT

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operative scar術後1ヶ月の腹部。左側副部に5cmの傷痕があります。脾臓を摘出しなければならない疾患はいろいろあるがもっとも多いのは”特発性血小板減少性紫斑病(とくはつせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょう)”通 常ITPと呼ばれる疾患である。これは脾臓が大きくなることは少ないので比較的手術操作は容易である。腹腔鏡下手術では開腹手術に比較し遙かにちいさな切開で手術が可能である。開腹術だと20から30cmの切開を腹部におくことが必要になるが、腹腔鏡だとせいぜい3cmくらいで可能である。術後の痛みや、回復のスピード、傷の大きさ等、どれをとっても内視鏡手術が有利である。しかしこれは脾臓の大きさが小さい場合であって、そのサイズが巨大となるとやはり腹腔鏡下での操作は困難を極めることになる。今回は腹腔鏡下の手術ができる限界と思われた。ものが大きく腹腔鏡下の小さな道具では視野を展開するのが容易ではなかった。しかし手術に第一助手で入っていただいた”Dr.Henzan”の神の手により完璧な視野が得られ手術はスムーズに進んだ。私はただ目の前の敵を倒すのに専念すればよかった。開腹手術でもそうだが内視鏡手術においてもやはり助手の役割は重要だ。むしろ助手の見えない力にオペは支配されているといってもいいだろう。
 脾臓を切除するにはいろいろなハードルが存在する。脾臓を固定しているいろいろな組織を丁寧に切離していかなくてはならない。脾臓と大腸、脾臓と胃、脾臓と腎臓、脾臓と横隔膜を結んでいるバンドを切っていく・・・出血させないように、大腸や胃や横隔膜を傷つけないように、しかも脾臓自体を傷つけないように細心の注意が必要だ。わずかな油断もできない。脾臓はかなり脆くわずかな力が加わっただけで容易に皮膜が裂けて大出血をきたす・・・しかも止血困難・・視界は不良となり手術操作は続行不能、執刀医の意識も遠のいていきそうになる(経験者)・・続行するか開腹へコンバートするか決断せねばならない。とにかく最後まで全く気の抜けないオペのひとつである。

脾臓摘出術は胆嚢や副腎摘出とならんでもっとも内視鏡手術のパワーを痛感するオペだ。内視鏡は狭くて深い体の奥にある臓器にアクセスするのが容易である。しかしオペは簡単ではない。開腹とは全く異なった戦略を立てねばならないのだ。先人の努力で、安全に容易に手術が遂行できるノウハウがこの10年あまりで蓄積されてきた。これからも内視鏡外科医は患者さんの痛みを少しでも減らせるように日々修練していかなくてはならない。
(2003年)

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