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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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外科手術体験キッズセミナー 〜きみもブラックジャックになれる〜

キッズセミナー
2007年1月14日,敬愛会ちばなクリニックおよび敬愛会 中頭病院 手術室において沖縄県内の中学生40人が外科手術体験セミナー ~きみもブラックジャックになれるさぁ~に参加し、本物の手術室で本物の手術衣、手袋を身にまとい、本物の自動縫合器、超音波メス、電気メス、内視鏡手術用シュミレータ等を使用して外科手術のトレーニングを行った。これは全国でも5番目(県内初)の試みであった。大好評であったこの企画の模様をレポートする。
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こどもたちの目の輝きに感動!
外科医離れがすすむ中『メジャーリーグで活躍している日本人野球選手やワールドカップで活躍しているサッカー選手に憧れるように、外科医に対してもあこがれを持って一人でも多くのこどもが外科医を目指して欲しい』・・こどもたちに外科の魅力を知ってもらうためには、実際に外科手術を体験してもらうことがいい ということでこのセミナーが企画された。『ブラックジャック』はご存じ手塚治虫作の人気漫画のヒーローでメスによって難病を治すことで『病気と闘う外科医』の代名詞になっており、多くの外科医のあこがれでもある。今回のセミナーは、最先端の外科手術の模擬現場を楽しみながら体験させ、外科手術に対する関心・理解を深め、こどもたちに外科手術の魅力を知ってもらう目的で行われた。
2007年1月14日、沖縄市知花の敬愛会・ちばなクリニックの4階のホールには県内から応募のあった40人の中学生が参加した。父母や学校関係者、報道機関の方々、スタッフの緊張感と熱気が充満した中、13時よりこのセミナーは開始された。
稲嶺よりKey note プレゼンテーションによる開会の挨拶、なかがみ病院の紹介、外科医の仕事についての紹介、そしてダイエーホークス王監督が受けられた手術、その他内視鏡手術等についてのレクチャーが行われた。当初、実際の手術のビデオも供覧する予定であったが時間の関係でそれは次回のお楽しみとした。
13時30分からは場所をクリニックから病院の方に移動した。手術用のガウン、キャップ、マスク、手袋、に身を包み、こどもたちは順次手術室に入っていった。はじめは緊張の面持ちでぎこちなかったが徐々にそれらしくはなっていった。
タスクは次の5つのパートがあったので1グループ8人に分かれた。
1:超音波凝固切開装置(ハーモニックスカルペル)による模擬手術体験。
 これは実際の手術テーブルに寝かせたマネキン人形(臨場感を出すためにドレーピングもきちんと行った)の腹部に鶏肉をおいて、超音波メスの原理や使用法を解説後、実際に切開、凝固等の訓練を行った。また、高周波メス(電気メス)での切開も経験した。空気中では超音波メスの振動が見えなかったのでコップの中の水のなかに超音波メスのブレードを入れた瞬間、水が飛び散ったのをみて歓声が沸いた。メスをもつ子ども達の態度は落ち着いており、目はとても輝いていたのが印象的であった。明日からでもすぐに外科に来て欲しいと思わせるほどのやる気がみなぎっていた。逆にこちらが何か忘れかけていた勇気であるとか元気をもらった感じがした。このタスクが終わるとハーモニックスカルペルのブレードをもってチェキによる記念写真が撮られた。
2:縫合糸による結紮体験
  結紮・縫合は外科の基本手技のひとつであり、今回は外科結び・男結び・女結びを訓練した。医学生や研修医でもあまり興味なさげでしかたなくやってますって感じであるが、中学生がものすごく夢中になって取り組んでいたのには正直驚いた。こんなもので喜んでくれるなんて全くの予想外であった。はじめは太い紐で結ぶ練習をして、その後は切開された鶏肉に通された本物の手術用の糸を結ぶ練習を行った。プレイステーションもハイテク化する時代に、こんなローテクなものに一生懸命取り組む子どもたちをみて外科の将来も大丈夫かもしれないと少しほっとした。
3:自動縫合器・自動吻合器のファイアー体験
 スポンジで作成した、胃や腸などの模擬臓器に本物のステイプルの入った縫合器、吻合器をファイアーし、縫合と切離を同時に行う器械を体験した。瞬時に切離と縫合を行ってしま魔法のような器械にこどもたちは目を輝かせていた。こどもたちが自動縫合器のレバーを引くたびに『ファイヤー』と大きな声が手術室中に何度もこだました。
4:内視鏡外科手術トレーニング用エンドトレーナーでの鉗子操作体験
 30cm以上の長い鉗子を使って手術を行う最先端の内視鏡手術のトレーニングを行った。3つの段階にわかれ順次難易度を上げていった。はじめは実際の目で見てボールやサイコロ、ビーズを持って移動する訓練、次に、鏡に映った対象物を取る訓練、そして、テレビカメラに映し出された画面のなかにある輪ゴムをはずして移動する訓練、血管をクリップする訓練・・・これらもまた、何でこんなにうまいの??というくらい上手にできていて内視鏡外科医の面目丸つぶれであった(^_^;)本当に子どもたちの潜在能力には参りました。明日からでも一緒に働きたいくらいです。
5 :内視鏡外科手術シミュレータ『Lap Mentor』による模擬手術
  これは、外科医でも滅多に体験できない内視鏡外科手術のトレーニングのためのシミュレータ。こどもたちは『腹腔鏡下胆嚢摘出術』に挑戦した。グループのみんなで分担して、胆嚢頚部の腹膜を剥離し、胆嚢管を露出、クリップ後、切離、また、胆嚢動脈も露出、クリッピング後これも処理した。ときに出血のトラブルに見舞われたりしながらみんな、このハイテクマシンを乗りこなしていた。
今回のブラックジャックセミナーでこどもたちはとても喜んでくれて、将来は外科医になりたいって子もいた。それにしても何で中学生はこんなにも生き生きとしていてのびのびしているんだろう。僕たち中年外科医だけでなく医学生や卒業したての研修医たちでさえあれほどの輝きを放つことは無くなっている。きっとどこかで何かを失っているんだろう。今回のセミナーでは彼ら以上にわれわれスタッフも何か癒されるものがあり、久しぶりに童心に帰れた気がした。
この数年、日本の医療システムがなだれのように崩壊してることは周知の事実である。医師の絶対数が足りず、仕事がきつい診療科では一人でも減ると持ちこたえられず一気に崩壊してしまう。産婦人科医療がその典型であり沖縄県だけでなく日本のあちらこちらで産科医不足による深刻な問題が広がっている。まだ、表面化するには至っていないものの、外科医を目指す研修医の減少も歯止めがかからない。僕ももう40歳を超えた・・にもかかわらずまだ、最前線で戦っている。これまで学んできた知識や技術を伝えたくても若い外科医がどこを探してもいない現実。いったいだれが10年後、20年後、手術でしか治せない病気と戦ってくれるのか。できれば今回のセミナーに参加してくれたこどもたちの中から一人でも10年後にうちの研修医として戻ってきて欲しい。そのとき僕はもう50歳を超えている・・でもまだ何とか彼らを一人前に鍛える時間は残されているかもしれない。
外科の道は確かに厳しい、一生修行、長い上り坂・・・私利私欲のためでなく、だれも登ったことのない高い山に登って欲しい。おそらく誰一人として登山の途中であり登頂 できない。でも、また次の世代が山頂を目指す・・ミロのビーナスにしろ、シューベルトの交響曲第8番(未完成)にしろ、未完成であるけれども無限の美しい輝きを放っている。
今回の外科手術体験セミナーには本当に多くの方々の無償の協力によって成功させることができました。多くの機材や手術材料の準備、提供、会場のセットアップ、その他諸々の手続きに奔走された山内栄賢さん、水場さんほか十数人のジョンソン・エンド・ジョンソン:エチコンエンドサージャリー株式会社の社員の皆様、株式会社沖縄メディコの宮平さん、この突拍子もない企画に反対せずに全面的に協力して頂きました敬愛会・中頭病院 院長 宮里善次先生はじめ病院の幹部、看護部、事務部長をはじめとする職員、そして休日にもかかわらず、協力していただきました手術室の看護師さんたち、外科部長當山鉄男先生、砂川宏樹先生、そして救急当直明けで一睡もせずに夕方までつきあってくれた研修医の比嘉幹子先生、子どもたちを引率してくれた学校の先生方、ご家族、そして、報道関係のみなさま、すべての方々に深く感謝いたします。(2007年1月)

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