I TOP I site policy I LinkIconcontact I
Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
印刷用表示 |テキストサイズ 小 |中 |大 |

HOME > Surgery > surgery tanko appendectomy

mission main bar

sils

『きず』のない虫垂切除術 Tanko 考

単孔式腹腔鏡手術 シングルポート内視鏡手術 SILS
single incision laparoscopic appendectomy 

今年はブレイクすることが間違いないだろう、単孔式腹腔鏡手術、Tanko(タンコー)。なぜここに来てTankoなのでしょうか?。なぜ、この手術が今になって流行の兆しをみせているのでしょうか?今回は若い女性の虫垂炎手術をもとにしてTankoについて考えてみたいと思います。

単孔式腹腔鏡手術(TANKO)とはどんな手術なのでしょうか?

単孔式腹腔鏡手術(たんこうしきふくくうきょうしゅじゅつ)とは基本的にはひとつの切開をおくことによって完遂する腹腔鏡手術のことです。従来の開腹手術も普通はひとつの切開で手術を行うのですがその大きさが全く違います。開腹手術は5cmから30cmくらい、Tankoは2〜3cm 程度と桁違いに小さくなります。Tanko以外の一般的な腹腔鏡手術では体に複数箇所、通常3から6カ所(胆摘で4カ所、胃切除で5カ所)の1cm前後の切開をおいて手術をします。確かに大きな切開はありませんから伝統的な開腹手術に比較して痛みはかなり少なくなりました。ところが複数箇所の”小さなきず”は決して整容上、完全に美しいものとはいえませんでした。そこで、それらの複数のキズを1カ所に集めてさらに整容性を高めることはできないかと言うことで生まれた手術です。10年以上前に最初の報告がなされましたが、そのコンセプトが理解されず認知されるまでこれだけの時間を要してしまいました。

単孔式腹腔鏡手術(TANKO)のメリットはなんでしょうか?

やはり、手術によって作られる『きずあと』が最小限になります。つまり整容性に優れていると言うことは間違いないというのが大多数の意見だと思います。人の体にはひとつだけ生まれながらに持っている『きずあと』があります。そうです、臍ですね。おへそは最初から『きずあと』ですから、そこを切開してもまた”きずあと”になるだけなので多くのTanko手術は臍に切開をおくのが基本になっています。痛みが普通の腹腔鏡手術と比べて少ないかどうかはまだはっきり分かっていません。しかし、僕のごくわずかな経験からの印象では痛みは少ない感じがしています。今後はこの痛みの程度に関して科学的に検証して行く必要があります。その他のメリットは今のところはっきりしたことは分かっていません。少なくとも手術を施行する外科医にはオペのストレスが増すことはあれ直接のメリットはないように思えます。でも、キズがない手術を受けた患者さんに喜こんでいただけるならそれは外科医自身の喜びにもなるのは間違いありません。

単孔式腹腔鏡手術(TANKO)のデメリットはなんでしょうか?

現在分かっているデメリットはいくつかあります。まず、これまでの腹腔鏡手術に比べて手術が『窮屈になる』ことです。難しくなるということではなく窮屈になるという印象を持っています。腹腔鏡手術そのものは生まれてから20年以上が経過してますからほぼ成熟してきたといえます。腹腔内で何をなすべきかはきちんとした内視鏡外科医であればすでの分かっているわけですからオペにおいてのターゲット臓器付近での手操作そのものの困難性はあまりない印象です。ただ、ひとつの小さなきずから複数の細いカメラや手術器械を出し入れする必要がありますのでとっても『窮屈』になります。具体的に言えば、外科医の目となる”カメラシステム”と外科医の”手となる”鉗子・エネルギーデバイス類が体の『外でも中でも』ぶつかりあってしまいます。そのためその『窮屈さ』を克服するために内視鏡外科医は様々な工夫をする必要があるわけです。大きく分けると2つに分けられます。そうです、①主手術器械を新しく開発する(ハード)、②手術の方法、戦略を変える(ソフト)、ですね。新しいオペが出てくるとどうしてもこの二つのことはしっかり『研究』しなくてはなりません。

単孔式腹腔鏡手術(TANKO)はどんな臓器・疾患に行われていますか?

まだまだ、多くが行われているわけではありませんが、現在もっとも多く行われているのは、胆石症に対する『腹腔鏡下胆嚢摘出術』、虫垂炎に対する『腹腔鏡下虫垂切除術』、大腸疾患に対する『腹腔鏡下結腸切除術』、胃粘膜下腫瘍に対する『胃部分切除術』、病的肥満に対する『減量手術』、他婦人科手術など多くの臓器に適応されつつあるようです。

単孔式腹腔鏡手術(TANKO)は安全に施行可能ですか?

まだ、試行錯誤で施行されている手術ですから従来の『多孔式』腹腔鏡手術に比べるとそのノウハウの蓄積は少ないと言わざるをえないでしょう。安全に普及させて行くにはやはり段階を踏んで慎重に行っていく必要がありあります。多くの外科医の経験や工夫を持ち寄る研究会が発足しましたので一人の経験をみんなの経験にしていくことは可能だと思います。患者さんにとってメリットがあるのならやはり困難性を克服していくことをしていかなければなりません。医療現場は現状維持ではダメなのです。

急性虫垂炎に対する単孔式腹腔鏡手術(TANKO)はどんな利点がありますか?

急性虫垂炎は日本人の6人に1人が罹患すると言われているとても頻度の多い疾患です。ある意味ありふれた病気で診断も比較的容易ですが、中には診断がとても困難なケースがあります。普通、右下腹部に痛みを覚えますが、同様の疾患はとても沢山あります。血液検査の他に、エコーやCT等が普通行われますがどんなに優れた画像検査をしても手術によって実際おなかの中をみること程の情報は得られないのが普通です。悩ましいケース、特に若い女性においては婦人科的な疾患が無いかなどを見るのにとても優れています。通常の開腹の虫垂切除術では3cm前後のキズからは虫垂を見つけて処理するのが限界でとても他の臓器を観察することはできません。それどころかしばしばその虫垂を見つけることでさえ難渋することもあります。腹腔鏡下の虫垂切除をやり始めると開腹虫垂切除がいかに苦しい手術かを知ることになります。ただ、通常の多孔式腹腔鏡手術ではきずあとが開腹手術に比べても美しくありませんでした。でも、もしほとんど目立たないキズでおなかの中を十分広い範囲観察ができて虫垂も簡単に見つけられるならこの手術はとてもいいものになると思われます。ただ、実際上の問題点としては、胆嚢摘出術が普通予定手術が多いのに対し、腹腔鏡手術は『緊急手術』が多くなります。手術そのものは胆嚢摘出術よりも容易ですが緊急という患者さんの体の状態、機器の準備という手術室の問題等から、”大げさな”機器の準備がほとんどいらない開腹手術がを選択される場合が多いのではないでしょうか?

単孔式腹腔鏡手術(TANKO)とはどんな手器具が必要ですか?

これまで普通に行われている腹腔鏡手術の器具で可能です。ただし、窮屈さを取り除くには『細くて長い光学視管(テレスコープ)』、フランジ(ヘッド)が小さく、長いアクセスポート、極細の鉗子、等があったほうが有利だと思います。

このケースは若い女性で臨床所見が虫垂炎に特異的ではなく婦人科疾患、大腸疾患等も考慮に入れる必要があった。そのため、腹腔内の観察も十分できてしかもキズが極限に小さくなるSILS(今回は1本細径の鉗子を補助で挿入したのでmodified SILS)を選択した。腹腔内を観察し他に異常が無いことを確認して虫垂を切除した。やはり非常によく見えるためオペをしていて気持ちがいいし、他に異常が無いことも確認できるので安心感も得られる。ただ、ポートを入れるのはけっこう工夫が必要あり新たな工夫をしないと安全生を損なうことになりかねないと思っている。特に2番目。3番目のトロカールの挿入にはとても注意深く行わなければならない。ブラインドでトロカールを挿入するというのは絶対に避けなければならない。安全性を損なっては本末転倒である。今回は安全性整容性、オペの迅速性のバランスを考慮し純粋なTankoにはしなかった。pureSILSにこだわりたい気持ちもあるが段階的に成熟させていきたいと思っている。

port site図1 臍から5mmのカメラと超音波切開装置、左下腹部から2mmの細径把持鉗子appendix図2 虫垂を捉えたところmesoappendix図3 超音波切開装置で間膜処理divide appendix図4 虫垂を結紮して切離したところoperative scar図5 手術終了直後の傷。臍の凹みを超えるキズはありませんtelescope図6 上が普通の長さのカメラ、下がシングルポートに有利な長いテレスコープ(このオペのために特別に購入しました)
op scar2術後1週間のきず。全てが臍のなかで完結しています。

mission foota