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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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Art of Triangle

トライアングルの芸術

2005年7月某日、日本一綺麗な白鷺城こと姫路城で有名な兵庫県姫路市を訪ねた。沖縄より4時間かけてたどり着いたその美しい街で完成された美しい芸術的なオペと遭遇することとなった。姫路医療センター、内視鏡外科医長 金谷誠一郎先生、お腹をいっさい切ることなく”完全腹腔鏡下にリンパ節郭清、血管処理、十二指腸切離、胃切除、神経温存、残胃十二指腸吻合を行う”のである。この神の領域の手術を間近で拝見させてもらうチャンスに巡り会えた。
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himeji_castle世界遺産姫路城早期胃癌に対する内視鏡手術のひとつである”腹腔鏡補助下幽門側胃切除術”別名LADG(Laparoscopy assisted Distal Gasrectomy)なる手術が生を受けてから早いもので15年目を数える。胆嚢摘出術ほど爆発的には普及していないが確実に増えてきたオペである。通常の開腹手術に比較して腹部の切開の大きさは格段に小さくなった。最大5cm程度の切開であるから従来の1/4から1/5の大きさでほぼ同様のクオリティーでリンパ節郭清を伴った胃切除術を行うことが出来る。僕もこの手術を始めてからすでに4年目になるがとてもいい手術であると思っている。しかし、5cmとはいってもやはり従来の開腹手術と変わらない要素を残しているのがなにか腑に落ちなかった。また、悩みとしては、himeji_city姫路城の天守閣から望む姫路医療センターと姫路市たしかに通常の開腹手術に比較して傷の痛みは少なく術後の回復は明らかに早く、術後の患者さんの”重症感”がない、入院期間もかなり短い、というのは感じていたが、僕が期待するよりは痛み等は強い印象である。5cm前後開腹するのは胃の切離と再建のためであったので、もし再建を完全に鏡視下で行うことが出来ればお腹を開けずに済む。完全に腹腔鏡下で行う方法は今回の”デルタ吻合”か”ルーワイ法”が現実的だろうと考えていた。ちなみにこのデルタ吻合では完全に腹腔鏡下に手術は完結するのでLADGではなくLDG(腹腔鏡下幽門側胃切除術)ということになる。

 今回は前者のデルタ吻合というスーパーオリジナルな吻合法を開発しすでに70例以上の患者さんに対してその方法を用いてきわめて良好な成績を出しておられる姫路医療センター内視鏡外科医長の金谷誠一郎先生のオペを間近で見学させていただける機会に恵まれた。
 全身麻酔がかかりオペが開始された。慣れた操作でポートを挿入する。ポートの位置もこのオペ独特の計算され尽くされた非対称の位置であった。腹腔鏡が挿入され良好な視野のもとオペは開始された。第1助手を務めたのはこのオペに入るのは初めてという若い外科医であった。驚くべきことに金谷先生は助手の先生を第delta_anastomosisデルタ吻合のシェーマ3、第4の手のように自由にコントロールして手術はスムーズに進行していった。・・・デルタ吻合の勉強をさせてもらうのが主目的であったが、術野の展開の仕方、手順、デバイスの使用方法、そのいずれもが計算され尽くされた美しさをもっていた。ご存じのように”デルタ”というのはトライアングルつまり3角形のことであるが、このオペを通じて機能美をもったいくつかのトライアングルに気づいた。まず、外科医は患者さんの左右と下の方の3カ所に立ち2等辺三角形の配置であった。オペレーター、アシスタント、そしてカメラオペレーターである。今回のオペではこの3つの頂点に立つ外科医が有機的に自分の仕事を最大限にこなしていた。オペレータの金谷先生の手技は言うまでもないが、アシスタントの若い先生の両手の鉗子も術野の展開に非常に重要であった。それと、今回のオペではカメラオペレーターの五味先生のカメラワークがすばらしいと感じた。さすがにこのオペを知り尽くしているだけあって対象物をみる距離、角度を自由自在に操り、オペに腹腔鏡の介在があることをつinstruments使用するインストルメンツい忘れてしまうほどであった。普通、カメラのレンズも血液や水蒸気、油、ミストなどで曇ることをよく経験するが今回のオペではレンズが曇って腹腔鏡を体外に出して拭く回数はほんのわずかであった。これは、術者のストレスの軽減、手術時間の短縮、ひいては患者さんの手術侵襲の軽減につながるので重要である。剥離までは近距離でそしてハーモニックスカルペルをアクティベートするときはサッと離れてミストからの攻撃をかわす・・実に見事なフットワークであった。また、胃切除術の時にストレスになる小弯側の展開のために肝臓が往々にして視野の障害になる。これに対してもペンローズドレーンを巧く使用して肝臓を吊り上げていた。このときも、ペンローズドレーンは3本の糸が縫いつけられ、ドレーンは中央で屈曲してトライアングルを形成していた。音楽の時間に使う楽器”トライアングル”で肝左葉を持ち上げているかのようであった。それと、このオペはかなり助手に依存するオペであると感じた。手術の完成度を上げるには良好な視野の確保、そして剥離・切離のために良好な組織の緊張が必要である。オペレーターの左手とアシスタントの両手の2本の鉗子、合計3本の鉗子が複雑で処理困難な腹腔内の構造物を瞬時に単純な2次元に変換し処理を容易にする。今回アシスタントを務められた先生はこのオペに詳しくない先生であったにもかかわらずオペレータの適切な誘導でテンポ良く術野は流れていった。高校生のときに習った数学をつい思い出した・・・3次元の空間に2点が決まっただけでは線にしかならない・・3点が決定すれば面ができる・・・面だ、3次元の中で2次元を作る・・単純化すdr_kanayaオペ中の金谷先生ることで適切な剥離、切離が可能となる。トライアングルだ・・。4カ所は必要ない、なぜなら4点では逆に面が壊れて複雑になるからだ。(きっとカメラの3脚も4脚だと逆に転んでしまうだろう)3角形の偉大さをまた認識した。さて、話が脱線したが、金谷先生のリンパ節郭清は完璧だった。しかも神経は適切に温存されていた。
 リンパ節郭清も終了し、病巣を含んだ胃の一部が切除され、場面はクライマックスの再建に移った。リニアーステイプラーを使用し残胃と十二指腸の吻合はあっという間に完了した。その時間、実に11分15秒であった。ステイプラーのファイアーは全て助手であるのでこのオペを知り尽くした助手であれば恐ろしく短い時間で吻合は終了するものと思われた。専門的にみればこの吻合法は機能的端々吻合ということになる。しかし、なぜか”形態的”にも端々吻合になっている。・・これはマジックだ。僕の貧困な頭では理解困難であるが、実際そうなっているのが不思議だ。

今回の旅の収穫はかなり大きかった。”トライアングルのマジック”にふれた姫路の旅であったohmine_kanaya_inamine左より大嶺先生・金谷先生・稲嶺。姫路医療センターを離れ世界遺産”姫路城”の天守閣の一番高いところまで登ってみた。予想以上に頂上までたどり着くのはきつかったがそこからの風景は素晴らしかった。それは内視鏡手術を目指すのと似ている。高いところに登るのはきついが、そこからは登ったことがある人間だけにしか見えない世界がある。違ったレベルから外科の手術そのものが見えてくる。ケーブルやエレベーター等の楽な道具はないが、階段は用意されている、信念を持って自分の両足で登って行くだけだ。

今回、この素晴らしい手術を学ぶ機会を与えていただきました金谷先生、五味先生はじめ手術室のスタッフのみなさん、そしてJ&Jの方々に深く感謝いたします。これから僕とかかわるであろう患者さんたちにもきっとこの経験が生かされることと確信しています(2005年8月2日)。



金谷誠一郎 Siichiro Kanaya M.D.

金谷先生は姫路医療センターから愛知県の藤田保健衛生大学・上部消化管外科の准教授として招かれ胃がん、食道がんその他の腹腔鏡・胸腔鏡手術そしてdaVinciを用いたRobotic Surgeryといった新たなステップに踏み出しておりましたが、現在は大阪赤十字病院へ異動され外科部長として活躍されております。その類い希な空間の扱い方、組織の取り扱い方、機器の扱い方は多方面から高く評価されています。『デルタ吻合』や『UVカット』など多くの胃がん手術の有用な技術を開発されました。また手術に使用する超音波凝固切開装置(ソノサージX)や腹腔鏡手術で使用する鉗子(ナターシャ・マンチーナ)等の開発にも深く携わっています。それらの完成度の高さはとてもこの文面では表現できません。後進の教育にも大変熱心でそのわかりやすい指導や美しいプレゼンテーションは高く評価されています。僕のもっとも憧れる内視鏡外科医の一人です。

出典: 天才内視鏡外科医の群像 稲嶺進著

kanaya and meDr.Kanaya and me 2005