I TOP I site policy I LinkIconcontact I
Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
印刷用表示 |テキストサイズ 小 |中 |大 |

HOME > Surgeons of Exellence > Dream Weaver

elk billboard

夢を織る魔法のスティック

Dream Weaver

2006年10月、東京のYMCを訪ねた。あのELKこと金平永二先生の胃内手術を教えてもらうためである。腹腔鏡下胃内手術は胃粘膜下腫瘍のようにこの技術がもっとも適している疾患が少なからずあるためどうしても身につけたい技術だ。狭い空間での独特の動きを必要とするためかなり制限されるこのオペを内視鏡手術の黎明期から開発に携わってきた第一人者の技術を身近で触れる機会に巡り会えた。沖縄で一度だけその胃内手術に入らせてもらったが今回はさらにそのオペの詳細なノウハウに迫りたい。

eiji kanehiraELKEiji Kanehira(金平永二)を語らずして日本の内視鏡外科を語ることはできないだろう。内視鏡外科がこの国で産声を上げる以前に若くしてドイツに渡りその先進的な技術と知識を学んだ。帰国後は内視鏡外科の発展に大きな足跡を残したのは周知のことである。ほぼ全ての腹部内視鏡手術を守備範囲とするall round playerであるが、特に他の追随を許さないのが今回のテーマとなっている『腹腔鏡下胃内手術』そしてあの『TEM:Trans anal endoscopic microsurgery』つまり経肛門的内視鏡手術などのようにかなり狭い空間でスティックさばきを必要とするオペだ。そのオペは普通に行われている腹腔鏡手術に比べて、そのワーキングスペース(作業空間)が狭いこと等によりとても大きな制約が生じる。ポートを挿入するちょっとした角度の違いで操作が続行不能になったり、狭い空間であることにより電気メス使用などの際に発生した煙やミストが視野を妨げたりする頻度がとても多くなる。オペを快適にできる許容範囲がとても狭いのだ。これまでもいろいろなオペで胃内手術をトライした。確かに胃の内腔に腹腔鏡を入れて観察すると信じられないほど綺麗な画像が得られる。普通の胃カメラの像とは比較にならないほど胃内の観察が楽しくなる。とにかくよく見えるのだ。しかし、よく見えるのはいいとして、胃粘膜下腫瘍等のターゲットへのアプローチに難渋することが大いにある。これこそがこのオペのハードルを高くしている原因だ。その壁をどう乗り越えるべきなのか、そのヒントを得るのが今回のミッションだ。

elk向こう向きのeijiYMCのOperating Room 、そこはEijiのこれまでの知識や技術、哲学を全て織り込んだパーフェクトなレイアウトになっている。全ての機器が有機的につながりとてもいい環境が出来ており妥協を許さないEijiの強いこだわりを感じた。すでに患者さんには全身麻酔がかかりドレーピングも済んでオペはいつでも開始できる状態になっていた。今回のターゲットは例によって噴門直下の胃粘膜下腫瘍だ。なんでよくもこんなところに出来てしまったんだろうとぼやきたくなるが、実はここはこの疾患の好発部位でもあるので我々はどうしてもこの部分の腫瘍と戦うことを避けては通れない。内視鏡手術が出来ない場合は仕方なく噴門側胃切除や胃全摘術というかなり大きな範囲を切除することを選択することもある。そうなれば病気そのものは治癒したとしてもその後の生活は大きく制限されてしまう。
 さて、そうこうしているうちにオペレータの合図でオペは開始された。まずはポートの挿入だ、患者さんの体型や胃透視による胃の形・大きさ・病変の位置などをすべて考慮に入れて戦略を立てた。先述のようにこの手術はちょっとしたポートの位置の選択でオペが地獄にも天国にも変わるため綿密な計画が必要だ。まず臍部からファーストポートを挿入して腹腔内を観察し大きな異常がないことを確認した。オペの現場は胃の中であるがその外側の腹腔内もキッチリ観察することも重要らしい。腹腔鏡で観察しながら腹壁を貫いたトロカールをいきなり胃壁に突き刺すのかと思いきや、そうではなくて、口から胃内へと挿入した胃カメラの助けを借りて、内視鏡的胃瘻造設(PEG)をするテクニックで最初に挿入した臍部トロカールの部位に鮒田針を用いて胃壁を挙上し腹壁へと固定した。その操作を繰り返しポート挿入予定部は全て腹壁へと固定された。そして静かに胃壁に小さな穴をあけてポートを挿入、胃内をCO2で膨らませたあと腹腔鏡を挿入した。引き続いて処置用の5mmポートを”静かに”胃内へと挿入した。なるほど、いきなり腹腔鏡観察下に胃をトロカールで穿刺すると胃が凹んでしまい、うまく入らないばかりか、胃の後壁を誤穿刺してしまうリスクもこの方法では極めて低くなる。また、胃内手術の操作中にトロカール(ポート)がいつの間にか自然抜去してしまってオペが振り出しに戻ってしまうというようなことは起こりにくい。本当に理にかなった方法だと思った。さて、胃内へのすべての”アクセスルート”が確保されたところでいよオペの本番だ。腹腔鏡用の内視鏡を胃内へ挿入し観察する。やはり視野はすこぶる良好だ。胃内の粘液を全て吸引してさらにクリーンな環境にする。腫瘍は食道直下、小弯、やや前壁側に鎮座している。本当にやっかいな場所だとあらためて思った。Eijiはまず、粘膜下腫瘍の周囲を取り囲むように高周波メスを用いてマーキングを行った。そしてペチニードルを用いてその粘膜下に生食を注入して粘膜切離へと備えた。ニードルフsture内視鏡下胃内縫合ックタイプの器具をもちいて高周波メスで腫瘍の周囲の粘膜を切離してハッチングをしていく。胃は消化管の中で最も血流が豊富な臓器のひとつなのでちょとした血管からの出血でも一気に視野が悪くなる。とくに拡大視野の内視鏡手術においてはごくわずかな出血でもオペの続行が困難となる。そのため、非常に繊細に注意深く操作は続行していった。出血らしい出血はほとんどなかった。ときに煙がわき上がるが吸引をうまくコントロールして術野がダーティーになることは殆ど無く美しい映像が途切れなく流れた。粘膜の全周切開が終わったところで今度は腫瘍を胃の筋層から剥離・切離していく操作に移った。腫瘍の皮膜を確認してそれを傷つけないようにここしかないというライン・面・層で丁寧に丁寧に操作が続く。流入する細かい血管はすべて丁寧に凝固して切開された。その一連の操作を素人目には一見地味な作業が続いていると見えるかもしれない。しかし、組織を展開する方向、強さ、ここしかないというライン設定、電気の通電時間、全てが完璧だった。完璧だからこそいとも簡単なオペに見えてしまう。苦しそうに見えないオペをするまでには本当に多くの修羅場を超えて来たのだろうと思う。・・・その剥離操作が続けられそして腫瘍は切除された。最初から最後まで無血(無欠)のクリーンな視野が続きとても美しかった。さて、ここからがこのオペのもう一つの山場だ。腫瘍をきちんと切除するために粘膜だけでなく胃壁の一部が穿孔した、とは言っても胃壁に穴があくのは計算の範囲内だ。粘膜病変ではないので完全切除すると多くの場合胃壁に小さな穴が開いてしまう。当然このままで終われることはないので腫瘍を切除した部位を縫って閉じる操作が要求される。狭い胃内、右手と左手の鉗子の角度が小さく深い、しかも縫合閉鎖するターゲットの部位がいわゆる”6時の方向”ではなく10時の方向だ。究極の難易度が高い場面・・・。そこからがこの分野のエキスパートの本領発揮だった。左手に『フラミンゴ』右手に『オウム』のニードルドライバーを従え腫瘍を切除した胃壁の縫合を開始した。胃壁を通る26mmSH針,そしてそのあとに続く3-0PDSの糸、その糸が、フラミンゴとオウムの協調作業によって面白いように結ばれていく。2種類の美しい鳥がダンスをしながらひとつの作品を編み込んでいくようなそんな錯覚を覚えた。編み物をする2本の棒の動きで華麗な作品ができあがっていくのを見ている気がした。夢を織る・・Dream Weaver・・そんな感じだった。縫合の対象物が斜め上にあるときにはいかにそれを縫うのが大変かを知っているだけにその動きには感嘆せざるを得なかった。
 縫合が終了したところで胃カメラを食道から胃内へ再度進めて胃の入り口(噴門)が狭くないかを再度チェックした。そして切除された腫瘍は小さな巾着袋様のプラスチックバッグへ収納して食道を経由して体外へ取り出された。胃内の作業が全て終了したところで腹壁に固定した糸をはずし、腹壁・胃壁を貫くポートを腹壁だけ貫くようにして通常の腹腔鏡手術へと手術の現場は変換された。あとは胃の前壁にあいた小さな穴を縫合するのみだ。言うまでもなくいとも簡単にそれらの部位は縫合され、このオペは終了した。


内視鏡下縫合技術を指導するEiji内視鏡下縫合をデモンストレーションするELKと若い外科医たちエルク、ELK とはこのページのビルボードの写真にあるように北米に生息する大きな美しい鹿の名前である。そして、もう一つ、Eiji Kanehiraのイニシャルでもある。ミドルネームには"L"が当てはまるが一説には、”Laparo”だとか"Love"だとか"Luxry"だとか"Luciano"だとか巷ではいろいろ言われているが実際のところだれにも分からない。ELKはわれわれ内視鏡外科の道を行くものの憧れでもある。オペは上手く美しい、いくつもの言語を操り・・・しかもカッコイイ・・。そして何より根っからのsurgeonということだ。所詮外科医に求められるのはいかに完成度の高いオペをして質の高い医療を患者さんに提供できるかということに尽きる。自らの権力を求めるより、患者さんが求める外科医療を提供する。求める外科医ではなく求められる外科医、男はだれだって頂点に立ちたいと願うもの、ELKの生き方は社会的地位の頂点を目指すのではなく疾患を治療する外科医本来の頂点を目指してるかのようだ。そして、彼一人が質の高いオペを出来たとしても日本中の患者さんを救えることは出来ない。だから、その技術を広く多くの外科医に伝える活動も日々継続している。そもそも僕が内視鏡外科手術にどっぷりつかっているのも、この『ミッション』というサイトを立ち上げたのも、体腔内吻合にこだわるのもELKとの出会いがあったからこそだ。求められる外科医、患者さんの期待に応えられる外科医、僕もソウイウモノニナリタイと思いつづけている。

2006年

金平永二 Eiji Kanehira MD

2010年現在金平永二先生は埼玉県上尾市の上尾中央病院を中心に診療・内視鏡手術をされています。そしてAMESA(アミーサ AMG 内視鏡外科アカデミー)という新たなチャレンジを行っています。多くのオペをこなされる超多忙の傍ら内視鏡外科手術の技術とフィロソフィーを全国の内視鏡外科医に伝道する活動を続けられています。ELKのDNAが多くの人に引き継がれることになるでしょう。
追記:2012年より内視鏡外科手術の理想郷を追求したメディカルトピア草加病院http://www.mtopia.jp/を設立して院長としてさらに質の高い手術を探究されています。また平成23年にはそれまでの日本における内視鏡外科の発展への貢献の高さが評価され日本内視鏡外科学会の最高賞である「大上賞」を受賞されました。詳細は下記のリンクを参照されて下さい。
elkrogoELK エルク 金平永二 先生の内視鏡外科サイト
amesa アミーサ 金平永二先生の内視鏡外科アカデミー

出典: 天才内視鏡外科医の群像 稲嶺進著

elk