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Misson for Life Island clinic minimally invasive surgery center. since 2003 
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Kazu billboard

世界を変える究極のメタボリック手術

Beautiful Dreamer
In the middle of every difficulty lies opportunity Albert Einstein

2010年4月、東京の都心にあるYMC(四谷メディカルキューブ)を訪ねた。以前からの願いであったKazu(笠間和典)が開発した究極の減量手術、というより代謝手術(メタボリック手術)を見学させてもらうためである。今や減量手術の世界ではMr.Japanとよばれる世界のKasamaとなったKazu。選ばれし者(外科医)にしかできないという難易度の高い減量手術、その中で最も困難なBPD/DSというオペをアレンジし完成させたLSG/DJB。しかも十二指腸空腸を完全な手縫いで行うという”超”がつく究極のオペだ。このオペの主な目的は『糖尿病』を”治すこと”だ。究極の難易度のオペを使い治ることの決してないと言われている『糖尿病』を治すという究極のミッションに挑んでいるのだ。このオペは技術的な困難性が高いだけでなく目指すところもこれまでの常識を逸脱している。今回彼の最新のオペの技術をライブで見ることができる機会に恵まれた。

ymc四谷メディカルキューブKONISHIKIさんやアルゼンチンのサッカー代表監督のマラドーナが高度肥満のために受けたことで注目された『ガストリックバイパス』は日本ではごく少数しか行われていない難易度の高いオペだ。オペは確かに大変だが高度肥満には効果が確実で2008年には世界で40万件以上が施行されたという報告がある。日本では1982年にハーバード大学留学から帰国した千葉大学の川村功先生が我が国に導入した。この国では健康を著しく害するような高度肥満はそれほど多くなかったためこの手術は20年間、世界レベルでみれば少数(とはいっても100例以上)しか行われてこなかった。しかし、20世紀の終わり頃から肥満の急増と体に優しい腹腔鏡手術の出現・発展が世界的な減量手術の指数関数的な増加をもたらした。そして、ある一人の高度肥満患者の女性によってこの国でも腹腔鏡下胃バイパス術が始まることになる。選ばれし外科医は『笠間和典』、彼の高い技術と強い信念がこの難易度の高い手術を日本で初めて成功させたのだった。時は2002年、川村功先生によって開腹のバイパスがこの国にもたらされてから20年後のことであった。その後、胃癌が多い我が国では残胃の検査が容易でないバイパスは行なうべきではないという声が吹き荒れ日本ではラップバンドこそが減量手術であるとさえ言われ、誰もがもうKazuの偉業は闇に葬られると思っていた。ところが、そこがKazuが普通の内視鏡外科医と違うところだった。すでに世界的視野で減量手術を見ていた彼は強い心を持って患者さんの必要とする手術をやり続けた。その頃アジアではまだ減量外科の黎明期であったためKazuは多くの国外の学会などでレクチャーやライブ手術を依頼されたのだがその高い技術と強い気持ちでそれらの多くの難局をのりこえ賞賛された。そうして、アKazuオペ中のKazuジアはもちろん、アメリカ、ブラジル、ヨーロッパなどほとんど世界中の第一線の減量外科医達から認められるようになり本場アメリカでさえ重要な会議には必ずといっていいほど招かれている。また、『ピンチはチャンス』とも言うが、ガストリックバイパスが胃癌の多い日本でやっていけないというのなら、ガストリックバイパスよりもさらに難易度の高い『BPD/DS』という胃カメラの可能な究極に困難なオペを行うこととしたのだった。しかも、そのオリジナルのBPD/DSは術後の患者さんの栄養状態をかなり悪化させる可能性があるためバイパスする小腸の長さを短くすることによって長期の栄養障害というこの手術の欠点を解決したのだった。形態的・技術的にはBPD/DSという十二指腸バイパスだが、手術のコンセプトはBPDよりガストリックバイパスに限りなく近い。まさにコロンブスの卵であり『困難のさなかに必ずチャンスがある』といったアインシュタインの名言を具現化してみせたということになる。そして、Kazuが提唱したスリーブバイパスという手術は、世界的なトピックである『メタボリックサージャリー』という”糖尿病を治す手術”の発展も相まって脚光を浴びている。『スリーブバイパス』正確にはLaparoscopic sleeve gstrectomy with duodnojejunal bypassという手術はいまや多くの人類を救うかもしれない救世主の本命ともいわれている。

東京yosukeYosuke Sekiのど真ん中にある四谷メディカルキューブ、そこは一切の妥協を排除した診断機器、そして手術機器などを揃えているばかりか、患者さんが快適に診療・治療を受けていただけるような安心感を与えてくれるような工夫が随所に見られる。病院のあちらこちらに散りばめられたアートやさりげないアロマが不安でいっぱいの患者さんの心を癒してくれる。また、病室はホテルではないかと思うほどの綺麗な作りだ。その施設でKazu (笠間 和典) はそのオペを行っている。この施設を訪問するのはこれで4回目だ。2006年12月には日本で初めてのBPD/DSを行うというので訪問した。その時はあのMichel Gagnerがアメリカ(フランス経由で)からオブザーバーとして来ていた。あれから3年ちょっと、彼の技術と新しいオペが見れるということで胸を躍らせ東京へと飛んだのだった。

全身麻酔がかかり、腹部の消毒後ドレープがかけられ、腹腔鏡手術に必要な数々の機器のセットアップが行われた。全ての準備が整ったところでKazuの合図でオペは開始された。迷い無く腹部のある一点にメスを走らせたかと思うと腹腔鏡を装着したポートがオプティカル法にていとも簡単に腹腔内に飲み込まれていった。高度肥満の患者さんの腹腔鏡手術ではこの場面だけで時間を浪費する可能性だってあるが当然のごとくその操作は数十秒で終了した。もちろん何の危なげもなかった。気腹して腹腔鏡をおなかの中の空間である腹腔へ挿入して観察する。大きな異常は無いようだ。しかし、やはりというか、肝臓がかなり腫大している。その色調から高度な脂肪肝であることは間違いない。術前に減量したはずだがそれでもこれだけの脂肪肝の状態とは驚いた。また、BMIの割には大網など胃の周囲の脂肪が厚くてやりにくそうだなという印象であった。当然Kazuは残り3本のポートを何の困難性もなく腹部に挿入した。脂肪肝炎の状態を評価するための針生検を難なくこなし、心窩部から5mmのポートを挿入して手術に必要な視野を作成するのに必要なリトラクターを挿入して本格的なオペの前準備は整った。このオペはスリーブ・バイパスという名の通りスリーブとバイパスの2部からなっている。まずは腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(LSG:Laparoscopic Sleeve Gastrectomy) だ。型どおり、胃の大弯側の大網を超音波メスで胃壁からはずしていく。その操作に一切の迷いはない。当然といえば当然であるが助手を務めた関 洋介(Seki,Yosuke)の術野展開も見事であったのでオペは本当にスムーズだった。短胃動脈、左下横隔動脈の食道噴門枝の切離、そして横隔膜脚の露出ともにほとんど出血することなく最小限の時間で行われた。次に胃の出口に近い部位の大網も同様に処理していった。分厚い大網が視野を遮るがさすがに何の困難性もなかった。そして幽門を過ぎて十二指腸の周囲の剥離に移った。この操作は僕の中では未知の世界だ。胃癌の手術で十二指腸の周囲を剥離することはよくやるがこのオペでは対象も方法も全く異なるのでその操作は本当に新鮮に見えた。大網の処理が終わったところでいよいよスリーブ状の胃管作成だ。胃の小弯側においたチューブに沿わせてステイプリングを行っていく。普段から胃癌に対して腹腔鏡下の胃切除を行っている内視鏡外科医にはこの操作は朝飯前に思えるかもしれないが実は簡単ではない・・・。きちんとした知識を持たずに行うと地獄を見ることになる。胃にかけるテンション、微調整、ステイプラーの挿入角度、firingのタイミング、その他Yosukeとの絶妙な協調によって美しいガストリックスリーブが作成されていった。山はやはり最後の所だ、胃と食道のつなぎ目であるヒス角のどこを切るかはとても重要だ。すでに横隔膜脚を十分綺麗に露出していたのとKazuの左手、洋介のあうんの展開によってこの難局も容易にクリアーした。そして、ここからが圧感だった。ステイプラー(自動縫合器)で切離した30cmにも及ぶ胃の切断面を流れるような針糸さばきで縫い込んでいった。7年前に初めて彼のオペを見たときからすでに超越はしていたが見る度にその技術は洗練されていっている。これまでの多くの修羅場を乗り越えてきたことと現在の自分を超えることを常に考えていることがその結果を生んでいるのだと思う。一つ一つの操作が早いだけでなく正確であること、無駄な操作が一切排除されていること以外に、操作と操作のリンクというかリエゾンというか、そのつなぎ目がとてもスムーズになっていた。LSG/DJBSleeve Bypass
さて、美しいスリーブを作成するという前半の作業は終了したが、これからの山もかなり険しい。むしろこれからが本番という感じだろうか。十二指腸球部の周囲を超音波凝固装置を用いて丁寧に剥離したかと思うと、自動縫合器(エンドリニアステイプラー)で出来るだけ長い縫い代を稼ぐようにしてかなり遠位で十二指腸を離断した。この切離断端がブレイクダウン(リーク)してしまうともの凄く危険であるのでこの部位の操作は本当に集中力が必要だがそれも難なくこなした。もちろん幽門機能を損なうことは許されないので幽門を支配する神経と血流も適切に温存された。本当に息の抜けない場面がつづいたがまったくリズムが崩れることはなかった。そして、次にバイパスする小腸の長さを計測して小腸を腹腔鏡下にエンドリニアステイプラーで切断、そして再度、十二指腸に吻合する小腸の長さを計測し小腸と小腸をつなぎ合わせた。リニアステイプラーで吻合後、縫合器を入れた約2cmの穴をいとも簡単に針・糸を用いて腹腔鏡下に縫い合わせた。そしてそのバイパスする小腸脚を通すルートの脂肪を超音波で切開した後が今回の圧巻だった。何と、十二指腸と小腸を針と糸だけでつなぎ合わせたのだ。自動縫合器全盛の時代において完全な手縫いというのは時代遅れという人がいるかもしれない。でも、実は、手縫いの方が器械に比べてはるかに綺麗な吻合が出来る場合だってある。この部位がまさになのかもしれない。2cmにも満たない十二指腸を自動吻合器では安全につなぐことは出来ないと思う。漿膜筋層後壁の連続縫合後、超音波で十二指腸と空腸(小腸)に適切な大きさの穴を開けて、一針一針、丁寧に運針していった。針を通す角度、組織を取る幅、針を通す間隔、連続縫合の糸の締め具合、それらは本当にシームレスで腸管の組織に余計な力がかかっていないのが分かった。最後に十二指腸空腸吻合が終わり胃カメラを行った。胃カメラの画面でスリーブ状に作成された胃、そして幽門を超えた時に十二指腸と小腸のつなぎ目が全く狭くない真円であったのには本当に感動した。もちろんそれらのつなぎ目から空気が漏れることもなくビジュアルとしても機能としても完璧なオペだった。なんとその時間2時間30分。あれだけの内容の濃いオペをこんな短い時間で終わらせてしまうとは・・・。

SonochanSono-Chan
世界のトップレベルのオペ、それを実現しているのはもちろんKazuだけでない。アシスタントの関洋介(彼の縫合技術も日本のトップレベル)、カメラオペレータを務めた清水先生、麻酔の白石先生、そして、ナースの園田さんのそれぞれの個の技術の高さも普通ではない。それらが調和してハイレベルのオペが実現する。この国では高度肥満の数は諸外国に比べるとそれほど多くはない。しかし、糖尿病の数はかなりの勢いで増えており、2年前の統計でも800万人が糖尿病でその予備軍まで数えるとその倍で日本人の6人に1人が糖尿病という時代になっている。糖尿病は癌に勝るとも劣らない恐ろしい病気だ。治療も容易ではない。時間をかけて全身の血管、神経を傷害し最後は臓器不全となり命に関わる状態となる。これは個人レベルでも大変なことだが、この疾患の治療に要する増え続けるこの莫大な医療費は社会全体にとっても大きな問題だ。もし、本当に手術をすることによって糖尿病が『治癒』するならそれは本当に夢のような話だ。インスリンや経口血糖降下薬を毎日飲まなくてもいいとしたら・・・・。いま世界はまじめにその問題に取り組んでいる。日本以外の国はこのmetabolic surgeryをばかげたことだとは思っていない。日本の医師はもっと世界に目を向けるべきだ。この閉鎖的な島国でうたた寝をしている間にすでにアジア諸国からも取り残されてつつあることは悲しいことだ。糖尿病が手術で治る可能性がある患者さんがいるという事実からもう目をそらすことはできない。

オペの3日後、この患者さんが退院したとKazuからメールがあった。術後2日目からはインスリンなど、血糖をコントロールする薬剤は全て不要になったとのことだった。おそらく、もう二度と使うことはないだろう・・・。今すぐには無理だろうと思うけど、この『異端』とも思える治療法による『キセキ』がきっと日常の治療として受け入れられHopeless(希望の持てない)といわれている糖尿治療のLast Hopeとなる日が来てくれることを信じ僕らはこの坂道をこれからも歩いていくつもりだ。

笠間 和典 Kazunori Kasama, M.D. ,FACS

2010年現在笠間和典(かさまかずのり)先生は東京の四谷メディカルキューブで減量手術を中心とした仕事を数多くこなしています。日常の多忙な診療の間をぬって毎月のように海外から減量・代謝手術の指導的立場で講演や技術指導に招かれています。腹腔鏡下に消化管を針と糸だけで縫い合わせる技術は国内ではナンバーワンというよりオンリーワン的存在ですが海外でもトップレベルであることはみんなが認めているところです。その強い信念と高い技術が多くの高度肥満、糖尿病の患者さんの人生を変えていくことでしょう。

出典: 天才内視鏡外科医の群像 稲嶺進著

Kazu and NiltonKazu & Nilton